「うちのDXは進んでいるのか、遅れているのか」——中小企業の経営者からよくいただく問いです。感覚ではなく、公的なデータで自社の位置を測ることが、DXを次の段階へ進める出発点になります。本記事では、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表した「DX動向2025」(2025年6月公表)のデータをもとに、日本企業のDXの実態と、そこから中小企業が取るべき対策を解説します。数値の出典を明示しながら、自社の現在地を客観的に捉える視点をお届けします。
IPA「DX動向2025」とは?
「DX動向2025」は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が国内外のDX推進状況を調査・分析し、2025年6月に公表した報告書です。日本企業1,535社、米国企業509社、ドイツ企業537社を対象に、DXの取組状況や成果を国際比較している点が特徴で、日本企業のDXを客観的に位置づける貴重な一次資料です(出典:IPA「DX動向2025」2025年6月)。
なぜこのデータが中小企業に重要か
自社の取り組みを社内の感覚だけで評価すると、実態を見誤ります。全国規模・国際比較のデータと照らすことで、自社の強みと遅れを冷静に把握でき、限られた経営資源をどこに投じるべきかの判断材料になります。
データ1:DX取組割合は約8割に到達
日本のDX取組は米国と同水準
「DX動向2025」によると、日本企業のDXに取り組む割合は前回調査から微増し、約8割に達しました。これは米国企業と同水準で、ドイツ企業を上回る結果です(出典:IPA「DX動向2025」2025年6月)。「日本はDXが遅れている」という漠然としたイメージとは異なり、取り組み自体は着実に広がっていることがわかります。
「取り組んでいる」と「成果が出ている」は別
ただし注意すべきは、取り組んでいる割合が高いことと、成果が出ていることは別だという点です。次のデータが、日本企業の課題を浮き彫りにします。
データ2:成果は「効率化」に偏り「成長」が弱い
コスト削減は得意、売上・利益増は苦手
同報告書は、日本企業がコスト削減などの成果は米独企業に比べ高い一方で、売上高の増加や利益の増加といった成果を挙げた割合は低いと指摘しています。つまり、日本企業のDXは「経営の効率化」に成果が偏り、「企業の成長」につながりにくい傾向があるということです(出典:IPA「DX動向2025」2025年6月)。
「成長のDX」は取組は多いが成果が伴わない
報告書では、成長に繋がるDX(成長のDX)に取り組む企業は7割を超える一方、効率化のDXに比べて成果が出ている割合が相対的に低いことも示されています。IPAはこの傾向を、「内向き・部分最適」から「外向き・全体最適」への転換が必要だと分析しています。
データ3:85.1%がDX人材不足に直面
最大のボトルネックは人材
「DX動向2025」のデータからは、DXの取組割合が約8割に達した一方で、85.1%の企業がDX人材の不足に直面している実態も引用されています(出典:IPA「DX動向2025」2025年6月)。多くの企業が「やりたいが、進める人がいない」という壁に突き当たっているのです。特に中小企業では、専任のDX担当を置く余裕がなく、この課題はより深刻です。
このデータが中小企業に示す3つの課題
課題1:効率化で止まり、成長に踏み込めていない
多くの中小企業のDXは、経費削減や作業時間の短縮といった効率化にとどまりがちです。ここから、新しい顧客獲得や新サービスといった「売上を生むDX」へ踏み出せていないことが、データからも読み取れます。
課題2:人材不足で取り組みが属人化・停滞する
DXを進める人材が足りないため、一部の担当者に負担が集中し、その人が離れると取り組みが止まってしまう構造的な問題があります。
課題3:部分最適にとどまり全体につながらない
個別の業務ツールを導入しても、部門間や業務全体がつながらず、効果が限定的になりがちです。IPAが指摘する「部分最適から全体最適へ」の転換が求められています。
中小企業が取るべき対策
対策1:効率化で生んだ余力を成長投資に回す
まず効率化で時間とコストの余力を作り、それを新規顧客の開拓や新サービスの検討といった成長分野に再投資する流れを設計します。効率化を「ゴール」ではなく「原資づくり」と位置づけることが重要です。
対策2:外部人材・支援機関を活用して人材不足を補う
すべてを内製しようとせず、外部の専門家や支援機関を活用しながら、並行して社内人材を育てる「二正面」の進め方が現実的です。人材不足を理由に立ち止まらない工夫が求められます。
対策3:小さく始めて全体最適へつなげる
一度に全社を変えようとせず、効果の大きい業務から始め、成功体験を積みながら業務間の連携へ広げます。部分から始めて全体につなぐ設計が、無理のない全体最適への道筋です。
データの課題を乗り越えた取り組み事例(3件)
事例1:製造業(従業員45名規模)— 効率化の余力を成長投資へ
受発注業務の効率化で生まれた時間を、新規顧客向けの提案活動に振り向けた製造業のお客様では、「効率化のDX」で止まらず「成長のDX」へ踏み出すことができました。データが示す日本企業の弱点である「売上増につながりにくい」構造を、意図的に設計し直した好例です。
事例2:サービス業(従業員20名規模)— 外部活用で人材不足を補う
専任のDX担当を置けなかったサービス業のお客様では、外部の支援を受けながら社内の担当者を並行して育てる進め方をとり、人材不足を理由に立ち止まらずに取り組みを前進させました。85.1%が直面する人材不足の壁を、二正面の体制で乗り越えた事例です。
事例3:卸売業(従業員30名規模)— 部分最適から業務連携へ
個別に導入したツールが連携せず効果が限定的だった卸売業のお客様では、業務同士のデータをつなぐ設計に見直し、部分最適から全体最適へと進みました。IPAが指摘する「内向き・部分最適」からの転換を、身近な業務連携から実現した事例です。
デメリット・注意点:データの読み方
注意1:平均値と自社を混同しない
調査は全国・国際比較の傾向であり、自社の実態とは異なります。データはあくまで「自社を測る物差し」として使い、鵜呑みにしないことが大切です。
注意2:取組割合の高さに安心しない
約8割が取り組んでいるという数字は、裏を返せば「取り組むだけでは差がつかない」ことを意味します。成果につなげられるかどうかが競争の分かれ目です。
注意3:人材不足を外注だけで埋めない
外部活用は有効ですが、丸投げにすると社内にノウハウが残りません。外部の力を借りつつ社内人材を育てる視点が欠かせません。
注意4:調査年次と最新状況の差に留意する
本記事のデータは2025年6月公表の「DX動向2025」に基づきます。状況は変化するため、最新の調査結果はIPA公式サイトで確認することをおすすめします。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:データを見て安心・悲観するだけで終わる
数字を眺めて一喜一憂するだけでは何も変わりません。自社の位置を確認したら、必ず具体的な次の一手に落とし込みましょう。
失敗2:効率化だけを繰り返し成長に向かわない
効率化の成功に満足して止まると、データが示す「成長の弱さ」をそのまま再現してしまいます。効率化の次に成長投資を計画に組み込むことが重要です。
失敗3:人材不足を言い訳に着手しない
人がいないからと先送りにすると、差は開く一方です。外部活用で最初の一歩を踏み出す判断が求められます。
自社の現在地を測る簡易チェック
3つの問いで立ち位置を確認する
「DX動向2025」のデータを自社に当てはめるなら、次の3つを自問してみてください。第一に、自社のDXは効率化にとどまっていないか。第二に、DXを進める人材が特定の一人に依存していないか。第三に、導入したツールが業務全体でつながっているか。いずれも「はい」に近ければ、データが示す日本企業全体の課題を自社も抱えている可能性が高いといえます。
ギャップを次の一手に変える
チェックで見えた課題は、そのまま改善の出発点になります。効率化に偏っているなら成長投資へ、人材が一人依存なら外部活用と育成へ、部分最適なら業務連携へと、課題を具体的な行動計画に落とし込むことが重要です。データを見て終わりにせず、行動につなげるかどうかが成果を分けます。
国際比較データから中小企業が学べること
「効率化の先」を描く米独の視点
「DX動向2025」が日米独を比較していることには意味があります。日本がコスト削減に強い一方で売上・利益増に弱いという結果は、裏を返せば、効率化で得た余力を成長に振り向ける設計次第で、まだ伸びしろが大きいことを示しています。効率化を目的化せず、その先の成長までを見据える視点こそ、国際比較から中小企業が学べる最大の教訓です。
規模が小さいほど小回りが利く
大企業に比べ、中小企業は意思決定が速く、方針転換の小回りが利きます。人材やリソースの制約はあるものの、効果を確かめながら素早く軌道修正できる強みを活かせば、データが示す課題を乗り越える余地は十分にあります。
まとめ
IPA「DX動向2025」(2025年6月公表)が示すのは、日本の中小企業がDXに「取り組んではいるが、成長の成果に結びつけきれていない」という実態です。約8割が取り組む一方、85.1%が人材不足に直面し、成果は効率化に偏っています。だからこそ、効率化で生んだ余力を成長へ再投資し、外部の力も借りて全体最適へつなげる戦略が求められます。当協会のDX支援現場でも、この「効率化の次」を描けた中小企業ほど、着実に成果を伸ばしています。自社の現在地を確かめたい方は、当協会のサイトもご活用ください。(出典:独立行政法人情報処理推進機構「DX動向2025」2025年6月)
※本記事は、DX・AI活用に関する情報提供を目的としたものです。データの詳細は必ず出典元でご確認ください。


