通信利用動向調査 クラウド 企業利用率83.5%の裏側|令和7年調査で読む中小企業の対策

DX実態調査

「うちもクラウドは使っている。Gmailもあるし、会計ソフトもクラウドだ」。こう答える経営者は多いのですが、実際に社内を見ると、顧客名簿は担当者のパソコンの中、見積書は共有されていないExcel、勤怠は紙のタイムカードということが珍しくありません。「一部で使っている」と「会社の仕組みとして使っている」の間には大きな差があります。

総務省が2026年5月29日に公表した「令和7年通信利用動向調査」は、この差を数字で示しています。本記事では、クラウド利用とテレワークに関する最新データを出典付きで整理し、調査対象が従業員100人以上の企業であることを踏まえて中小企業の実態に読み替えたうえで、当協会の支援現場で見えている具体的な対策・事例・失敗パターンを解説します。

  1. 通信利用動向調査とは
    1. 令和7年調査の概要と公表日
    2. 企業調査の対象は「常用雇用者100人以上」
    3. 本記事で扱う範囲
  2. 調査結果:クラウド利用とテレワークの実態
    1. クラウド利用企業は83.5%、5年で13.1ポイント上昇
    2. 「全社的に利用」は60.0%、「一部の部門」は23.5%
    3. 利用理由:伸びが最大なのは「拡張性(スケーラビリティ)」
    4. テレワーク導入企業は50.1%、目的は「コロナ対応」から「人材」へ
  3. データが示す中小企業の課題
    1. 「100人以上で83.5%」なら、中小企業はもっと低い
    2. 「全社利用60%」の意味:残り4割は部門ごとの分断
    3. テレワークの二極化と「制度がない」リスク
  4. 中小企業が取るべき対策
    1. クラウド化は「①基盤 → ②業務 → ③データ連携」の順で進める
    2. 具体策:Google Workspace で「全社利用」の土台を作る
    3. テレワークは「制度と情報セキュリティ」をセットで整える
  5. 活用事例(当協会の支援現場から)
    1. 事例1:部門ごとにバラバラだったクラウドを統合(金属加工業・従業員45名規模)
    2. 事例2:テレワーク制度の整備で設計職を採用(建築設計事務所・従業員12名規模)
    3. 事例3:クラウド会計と受発注データを連携(食品卸・従業員30名規模)
  6. デメリット・注意点
    1. 調査結果を自社にそのまま当てはめない
    2. クラウドは「安いから」で選ぶと失敗しやすい
    3. セキュリティ設定を怠るとクラウドの利点が反転する
    4. テレワークは業務設計を伴わないと生産性が落ちる
  7. よくある失敗パターンと対策
    1. 失敗1:業務システムから先に入れて、基盤と連携できない
    2. 失敗2:クラウドにしたのに紙の運用が並走する
    3. 失敗3:担当者1人に任せて属人化する
    4. 失敗4:テレワーク規程を作らずに「なし崩し」で始める
  8. まとめ
    1. まずは無料でご相談・診断ください

通信利用動向調査とは

通信利用動向調査とは、総務省が統計法に基づいて毎年実施する統計調査で、世帯と企業を対象に、インターネットやクラウドサービス、テレワークなど情報通信サービスの利用状況を継続的に把握するものです。世帯調査は平成2年から、企業調査は平成5年から続く、国内で最も歴史の長いICT利用の公的データの一つです。

令和7年調査の概要と公表日

今回の「令和7年通信利用動向調査」は、令和7年(2025年)8月末時点の状況を調べ、令和8年(2026年)5月29日に結果が公表されました。出典は総務省の報道資料「令和7年通信利用動向調査の結果」(総務省 報道資料)および「ポイント資料」(PDF)です。本記事の数値はすべてこの2点から引用しています。

企業調査の対象は「常用雇用者100人以上」

ここが最も重要な前提です。企業調査の対象は、公務を除く産業に属する常用雇用者規模100人以上の企業6,040社で、有効回答は2,489社です。つまり、この調査の「企業」には、従業員数十名規模の中小企業や小規模事業者は含まれていません。後述するクラウド利用率83.5%やテレワーク導入率50.1%は「中堅企業以上の平均」であり、中小企業の実態はこれより低い可能性が高いと考えるのが妥当です。

本記事で扱う範囲

本記事では、企業向けの「クラウドサービスの利用状況」と「テレワークの導入状況」を中心に扱い、世帯調査はスマートフォン保有率のみ触れます。テレワーク単独の分析は総務省テレワーク調査と中小企業のDX格差の記事でも扱っています。

調査結果:クラウド利用とテレワークの実態

クラウド利用企業は83.5%、5年で13.1ポイント上昇

クラウドサービスを一部でも利用している企業の割合は83.5%でした。推移は令和3年70.4%、令和4年72.2%、令和5年77.7%、令和6年80.6%、令和7年83.5%と、5年連続で上昇しています。「今後利用する予定がある」は5.6%、「利用予定なし」は6.8%、「クラウドサービスについてよく分からない」は4.1%です。

「全社的に利用」は60.0%、「一部の部門」は23.5%

内訳は「全社的に利用している」が60.0%(令和6年53.1%)、「一部の事業所または部門で利用している」が23.5%です。全体の伸び(+2.9ポイント)を上回って全社利用が伸びており(+6.9ポイント)、新規利用の増加というより、すでに一部で使っていた企業が全社展開に踏み切った動きが令和7年の特徴です。

利用理由:伸びが最大なのは「拡張性(スケーラビリティ)」

クラウドサービスを利用する理由(複数回答) 令和7年 前年比
場所、機器を選ばずに利用できるから 50.7% +0.5pt
安定運用、可用性が高くなるから 45.1% +4.7pt
資産、保守体制を社内に持つ必要がないから 42.8% +0.2pt
災害時のバックアップとして利用できるから 38.7% -1.5pt
サービスの信頼性が高いから(情報漏えい対策など) 35.0% +2.7pt
システムの容量の変更などに迅速に対応できるから 32.6% +1.7pt
システムの拡張性が高いから(スケーラビリティ) 28.9% +6.8pt
既存システムよりもコストが安いから 19.4% +0.3pt

出典:総務省「令和7年通信利用動向調査」ポイント資料(クラウドサービス利用企業からの回答)。注目すべきは、「コストが安いから」が19.4%と最下位である一方、「拡張性」が前年22.1%から28.9%へ最大の伸びを示している点です。企業はクラウドを「安いから」ではなく「事業の変化に合わせて増減できるから」選ぶ段階に入っています。

テレワーク導入企業は50.1%、目的は「コロナ対応」から「人材」へ

テレワークを導入している企業は50.1%で、前年の47.3%から増加しました。推移は令和元年20.2%、令和2年47.5%、令和3年51.9%、令和4年51.7%、令和5年49.9%、令和6年47.3%、令和7年50.1%です。「今後導入予定」は3.0%、「導入予定なし」は46.9%で、導入する企業としない企業がほぼ半々に固定されつつあります。

テレワークの導入目的(複数回答・導入企業) 令和7年 令和6年
新型コロナウイルス感染症への対応 61.6% 66.0%
勤務者のワークライフバランスの向上 53.8% 51.6%
業務の効率性(生産性)の向上 45.0% 46.9%
勤務者の移動時間の短縮・混雑回避 42.6% 40.8%
非常時の事業継続に備えて 40.7% 45.3%
障害者、高齢者、介護・育児中の社員などへの対応 33.4% 27.3%
人材の雇用確保・流出の防止 23.9% 20.3%

出典:同上。コロナ対応と事業継続が減り、「介護・育児中の社員への対応」(+6.1ポイント)と「人材の雇用確保・流出防止」(+3.6ポイント)が伸びています。テレワークは緊急対応から、人手不足対策の一手段に位置づけが変わりました。なお世帯調査では、スマートフォンを保有する世帯が91.8%と9割を超えており、従業員側の端末環境はすでに整っていることが分かります。

データが示す中小企業の課題

「100人以上で83.5%」なら、中小企業はもっと低い

本調査に中小企業は含まれていないため、規模別の差は他の資料で補う必要があります。参考になるのは、MM総研が2021年12月に全国2,000社を対象に実施した調査で、クラウドを利用中の中小企業は49%にとどまり、中堅企業76%、大企業78%と大きな差がありました(日刊工業新聞 2022年3月7日付の報道による)。データは4年以上前のものですが、「規模が小さいほど利用率が20〜30ポイント低い」という構造は、当協会の支援現場の感触とも一致します。100人以上の企業で83.5%という数字を、そのまま自社の業界平均と受け取るのは危険です。

もう一つの補助線は、中小企業庁「2026年版中小企業白書」です。デジタル化の取組段階のうち、DXに該当する「段階4(デジタル化によるビジネスモデルの変革や競争力強化)」と答えた中小企業は2.8%で、2023年の6.9%、2024年の3.2%から年々減少しています。また、AIを活用している中小企業は約3割にとどまります。クラウドを「使っている」ことと、事業の競争力に結びつけていることの間には、依然として大きな隔たりがあります。白書の詳細は中小企業白書2026の解説記事をご覧ください。

「全社利用60%」の意味:残り4割は部門ごとの分断

100人以上の企業でさえ、クラウドを全社的に使えているのは60.0%です。残りの23.5%は「一部の部門だけ」で、営業はクラウドCRM、経理は自社サーバーの会計ソフト、現場は紙、という分断が起きています。当協会の支援現場では、この「部門ごとにバラバラなクラウド」が中小企業で最も多い状態です。ツールの数は多いのにデータがつながらず、同じ顧客情報を3か所に入力している例は珍しくありません。

テレワークの二極化と「制度がない」リスク

テレワークは導入企業50.1%、予定なし46.9%と二極化しています。ここで見落とせないのは、導入目的の上位に「介護・育児中の社員への対応」と「人材の雇用確保・流出防止」が入ってきたことです。中小企業では「うちは現場仕事だからテレワークは関係ない」と制度自体を持たないケースが多いのですが、事務職や設計職の採用面接で「在宅勤務は可能か」と聞かれた際に答えられないことは、採用競争上の明確な不利になります。

中小企業が取るべき対策

クラウド化は「①基盤 → ②業務 → ③データ連携」の順で進める

当協会が支援する際は、次の3段階で進めることを推奨しています。第1段階は基盤のクラウド化で、メール・カレンダー・ファイル共有・チャットを1つのプラットフォームにまとめます。第2段階は業務のクラウド化で、会計・勤怠・顧客管理・見積といった業務システムを、基盤と連携できるクラウドサービスに置き換えます。第3段階はデータ連携で、スプレッドシートや自動化ツールを使って部門間のデータを結び、経営ダッシュボードにまとめます。多くの中小企業は第2段階から始めて失敗するため、順番を守ることが重要です。計画の立て方はDX推進計画の立て方で解説しています。

具体策:Google Workspace で「全社利用」の土台を作る

第1段階の基盤として、当協会が中小企業に最も多く提案しているのが Google Workspace です。理由は3つあります。1つ目は、Gmail・カレンダー・ドライブ・Meet・Chat が1契約で揃い、「場所、機器を選ばずに利用できる」という調査上位の理由をそのまま満たすこと。2つ目は、共有ドライブによって「担当者のパソコンの中」にある情報を会社の資産に変えられること。3つ目は、Business Starter が1ユーザー月額800円(年間契約・税別、2026年9月時点。最新情報は公式サイトをご確認ください)からと、従業員20〜50名規模でも現実的なコストであることです。導入手順はGoogle Workspace完全ガイドを参照してください。

テレワークは「制度と情報セキュリティ」をセットで整える

テレワークを可能にするには、クラウド基盤に加えて、就業規則上のテレワーク規程、勤怠の記録方法、持ち出し端末のルール、2段階認証の必須化が必要です。とりわけ2段階認証とアクセス権限の設計は、クラウド化の「サービスの信頼性が高いから」という利点を実際に得るための前提条件です。詳しくはAIセキュリティ・データ保護の記事をご覧ください。

活用事例(当協会の支援現場から)

当協会が支援した中小企業の実例を、業種・規模・効果に抽象化して3件ご紹介します。

事例1:部門ごとにバラバラだったクラウドを統合(金属加工業・従業員45名規模)

営業は個人契約のクラウドストレージ、事務は社内サーバー、工場は紙の日報という状態で、図面の最新版が分からないトラブルが月に数回起きていました。Google Workspace を全社導入し、共有ドライブを案件番号ごとのフォルダ構成に統一。工場にはタブレットを置き、日報をフォーム入力に変えました。図面の版違いによる手戻りはほぼゼロになり、事務担当者が資料探しに対応する時間が週約3時間減りました。

事例2:テレワーク制度の整備で設計職を採用(建築設計事務所・従業員12名規模)

設計スタッフの採用が2年間決まらず、面接で「在宅勤務は可能か」と必ず聞かれていました。クラウドストレージと Meet を基盤に、週2日在宅のテレワーク規程、勤怠アプリ、2段階認証を整えて求人票に明記したところ、半年で経験者2名の採用に至りました。調査で「人材の雇用確保・流出の防止」が伸びている背景を、そのまま体現した事例です。

事例3:クラウド会計と受発注データを連携(食品卸・従業員30名規模)

クラウド会計は導入済みでしたが、受注は電話とFAX、請求書は手入力で、月末の締め作業に経理2名が3日間かかっていました。受注をフォームとスプレッドシートに集約し、請求データを会計ソフトへ取り込む形に変え、締め作業は1日に短縮。「一部の部門で利用」から「全社的に利用」へ移行した典型例です。自動化の進め方は業務自動化完全ガイドで解説しています。

デメリット・注意点

調査結果を自社にそのまま当てはめない

企業調査は従業員100人以上が対象です。「うちは平均以下だ」と焦って高額なシステムを入れる必要はなく、逆に「業界はまだ紙が多いから大丈夫」という油断も禁物です。自社の取引先や採用競合と比べることが、実務上は最も意味があります。

クラウドは「安いから」で選ぶと失敗しやすい

調査でも「コストが安いから」は19.4%と最下位です。月額は下がっても、初期の移行作業、社員教育、既存データの整理には工数がかかります。特に「一部の部門で利用」から「全社利用」に広げる局面では、社内ルールの整備が費用以上の負担になります。効果はコスト削減ではなく、場所を選ばない働き方と事業継続性で測るべきです。

セキュリティ設定を怠るとクラウドの利点が反転する

クラウドは「信頼性が高いから」という理由で選ばれていますが、適切な設定が前提です。共有リンクを「リンクを知っている全員」で放置する、退職者のアカウントを残す、2段階認証を任意のままにする、という状態では社内サーバーより危険になります。

テレワークは業務設計を伴わないと生産性が落ちる

導入目的の「業務の効率性向上」が45.0%と前年から下がっている点は示唆的です。紙の承認や口頭の指示を残したままでは、出社している人に業務が集中します。稟議・申請の電子化とチャットでの報告ルールを先に決めてください。

よくある失敗パターンと対策

失敗1:業務システムから先に入れて、基盤と連携できない

クラウド会計や顧客管理を先に契約したものの、社員のメールが個人アドレスのままで、ログイン管理も権限管理もできない状態です。対策は、まずメールとファイル共有の基盤を会社ドメインで整え、そのアカウントで各業務システムにログインする形にすることです。

失敗2:クラウドにしたのに紙の運用が並走する

ドライブに保存しつつ印刷して回覧する、勤怠アプリを入れたのにタイムカードも残す、という二重運用です。対策は「紙をやめる日」を決めて社内に告知し、移行期間を1か月に区切ることです。並走が長引くほど、社員は慣れた紙に戻ります。

失敗3:担当者1人に任せて属人化する

管理者権限を1人が持ち、退職後に誰も設定を触れなくなるケースです。対策は、管理者を2名以上にし、設定内容と手順書を共有ドライブに残すことです。

失敗4:テレワーク規程を作らずに「なし崩し」で始める

コロナ禍の緊急対応のまま、規程も勤怠ルールもなく在宅勤務が続いている企業があり、労務トラブルや情報漏えい時の責任があいまいになります。対策は、テレワーク規程・勤怠記録・端末ルールの3点を文書化し、就業規則に反映することです。

まとめ

  • 総務省「令和7年通信利用動向調査」(2026年5月29日公表)では、クラウド利用企業83.5%、全社的利用60.0%、テレワーク導入50.1%でした。
  • ただし企業調査の対象は従業員100人以上です。中小企業の利用率はこれより低い可能性が高く、2026年版中小企業白書でもDX段階4は2.8%にとどまります。
  • クラウドを選ぶ理由は「安さ」ではなく「場所を選ばない」「可用性」「拡張性」へ移り、テレワークの目的は「コロナ対応」から「人材確保」へ変わっています。
  • 対策は「基盤→業務→データ連携」の順で進め、Google Workspace 等で「全社利用」の土台を作り、テレワークは規程とセキュリティをセットで整えることです。

最初の一歩は、自社のクラウド利用が「一部の部門」なのか「全社」なのかを部門ごとに書き出すことです。当協会は中小企業のクラウド化・DXの対策をdx-ai.seed.or.jpで継続的に発信しています。

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