中小企業庁が2026年4月に公表した「2026年版中小企業白書・小規模企業白書」によると、中小企業のDX進展段階は「段階2:デジタルツール移行中」が57.3%と過半数を占め、「段階1:紙・口頭中心」が15.4%、「段階3:業務効率化・データ分析」が24.5%、最も進んだ「段階4:ビジネスモデル変革」はわずか2.8%にとどまります。つまり中小企業の7割以上が、ツールは導入したもののExcelや紙の延長線から抜け出せない「段階2」止まりという実態が、白書のデータで裏付けられています。本記事では、このDX進展段階データを軸に、なぜ多くの中小企業で脱Excelが進まないのか、その構造的な理由と取るべき対策を解説します。
中小企業白書2026年版が示す「DX進展段階」データ
出典:中小企業庁「2026年版中小企業白書・小規模企業白書」(2026年4月公表)。同白書では、中小企業のデジタル化の取り組み状況を4つの段階に分類し、毎年その分布を調査しています。
段階1〜4の定義とは
| 段階 | 内容 | 割合 |
|---|---|---|
| 段階1 | 紙・口頭中心の業務運営 | 15.4% |
| 段階2 | Excel等のデジタルツールへ移行中 | 57.3% |
| 段階3 | 業務効率化・データ分析に活用 | 24.5% |
| 段階4 | デジタル化によるビジネスモデル変革 | 2.8% |
8割近くが「段階1〜2」に集中している実態
段階1と段階2を合わせると72.7%に達し、中小企業の7割超が依然として「紙・口頭」か「ツールへの移行途中」の段階にあります。さらに白書の経年推移を見ると、最も進んだ段階4の割合は2023年が6.9%、2024年が3.2%、2026年が2.8%と、むしろ年々減少しています。デジタル化によるビジネスモデル変革を自信をもって実践できている企業は、増えるどころか減っているというのが実情です。
なぜ「脱Excel」が進まないのか
ツール導入と業務定着は別物という誤解
クラウド会計ソフトやSFA、勤怠管理ツールを導入しても、結局は「入力した後にExcelへ転記し直して集計する」という二重管理になっているケースは非常に多く見られます。ツールを導入した時点で満足してしまい、既存のExcel運用をやめる意思決定まで踏み込めていないことが、段階2で足踏みする最大の要因です。
データ活用の効果が実感しにくい構造
Excelは自由度が高く、担当者ごとに使い慣れた形式でデータを管理できてしまうため、「今のやり方で困っていない」と感じられやすいツールです。一方で部門をまたいだデータ集計や分析(段階3の業務)には、入力ルールの統一やデータ形式の標準化という地味な準備作業が必要で、効果が見えるまでに時間がかかるため後回しにされがちです。
現場の入力二度手間と抵抗感
新しいツールを導入しても、現場担当者からすれば「今までのExcelの方が早い」という感覚が根強く残ります。特に中小企業では専任のIT担当者がいないことが多く、ツールの使い方を丁寧に教える余力がないまま導入だけが先行し、結果として一部の人しか使わない「形だけのDX」に陥りやすい構造があります。
データが示す「先に進んだ企業」との差
AI活用企業は付加価値額増加率が23.0%
白書によると、2019年以降「成長に向けたAI活用」に取り組んだ中小企業の付加価値額増加率(中央値)は23.0%であるのに対し、取り組んでいない企業は17.9%にとどまります。両者の差は5.1ポイントに及び、データ活用の段階まで進んだ企業とそうでない企業の間で、実際の収益成長力に明確な差が生まれていることを示しています。
部門別ではものづくり現場が最も先行
部門別のAI活用状況を見ると、製造・生産管理・物流部門の活用率が57.2%と最も高くなっています。生産計画の最適化や需要予測など、数値データを扱う業務ほどAI活用と相性がよく、段階3以降への移行が進みやすい傾向があるといえます。
省力化投資が「効率的成長型」への転換を後押し
白書は労働生産性の観点から企業を類型化しており、省力化投資に取り組んだ企業の49.1%が、従業員数の増加率を上回る付加価値額の伸びを実現する「効率的成長型」へ移行しています。一方、省力化投資に取り組んでいない企業でこの移行を実現できたのは34.3%にとどまり、14.8ポイントの差が生じています。段階2で止まったままでは、この省力化投資の効果を得にくいことがうかがえます。
脱Excelを実現した企業の活用事例
事例1:製造業のお客様(従業員30名規模)
生産実績や在庫数をExcelで各担当者が個別管理し、月末に手作業で1つのファイルへ集約していたため、集計に数日かかっていました。クラウド型の生産管理ツールへ段階的に移行し、入力ルールを統一したことで、リアルタイムでの在庫・生産状況の把握が可能になり、段階2から段階3への移行を実現しました。
事例2:卸売業のお客様(従業員15名規模)
受発注データをExcelで管理し、顧客ごとの取引傾向の分析は手つかずの状態でした。受発注データをクラウドの顧客管理ツールに集約し直したことで、優良顧客の傾向分析ができるようになり、営業提案の精度向上につながりました。
事例3:サービス業のお客様(従業員10名規模)
予約管理・顧客台帳・売上集計がそれぞれ別のExcelファイルで分断されていました。予約管理システムを軸にデータを一元化し、顧客対応履歴と売上を紐づけたことで、リピート率の高い顧客層が可視化され、販促施策の優先順位づけができるようになりました。
脱Excel・DX推進のデメリット・注意点
移行期に一時的な業務負荷が増える
新旧のシステムを並行運用する移行期間は、入力作業が一時的に増え、現場の負担が大きくなります。移行スケジュールと役割分担を事前に明確にし、負荷が集中する時期を見極めておく必要があります。
ツール選定を誤ると再び「Excelへの逆戻り」が起きる
現場の業務実態に合わないツールを導入すると、結局使われずにExcelでの管理に戻ってしまうケースが少なくありません。導入前に現場担当者を交えた業務フローの棚卸しを行うことが重要です。
データ移行・入力ルール統一のコスト
過去のExcelデータをそのまま新システムに移せるとは限らず、データクレンジングや入力ルールの統一に想定以上の工数がかかることがあります。
属人化していた「Excel職人」への対応
複雑な関数やマクロを組んだExcelに精通した担当者が、業務のブラックボックスを一手に担っているケースがあります。その担当者の協力を得ながら、業務ロジックを新システムに落とし込む工程を丁寧に進める必要があります。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:段階3を飛ばしていきなり段階4を目指す
データ活用の土台(段階3)ができていない状態で、ビジネスモデル変革(段階4)を目指しても、分析すべきデータそのものが整っておらず頓挫します。まずは段階2から段階3、すなわち「データを溜める」から「データを使う」への移行を着実に進めることが重要です。
失敗2:ツール導入をゴールにしてしまう
ツールを導入した時点で満足し、既存のExcel運用を並行させ続けると、いつまでも段階2から抜け出せません。導入と同時に「いつまでにExcel運用を終了するか」を決めておくことが有効です。
失敗3:全社一斉導入で現場の反発を招く
一部署でも定着していない状態で全社展開すると、混乱と反発を招きやすくなります。まず1部署で成功事例をつくり、効果を数字で示してから展開範囲を広げるのが確実です。
当協会がDX支援の現場で中小企業の経営者・担当者と話す中でも、「クラウドツールは入れたが、結局Excelでの二重管理をやめられていない」という声を数多く聞きます。原因の多くはツールの機能不足ではなく、既存のExcel運用をいつ・誰が終わらせるかという意思決定が先送りにされていることにあります。データという土台が整わないまま生成AIの活用だけを進めようとして期待した効果が出ない、というご相談も増えており、段階2から段階3への移行を後回しにしないことが、AI活用による成果にも直結すると感じています。DX進展の具体的な進め方については、DX/AI情報サイト dx-ai.seed.or.jpの他の記事もあわせてご覧ください。
まとめ
中小企業庁「2026年版中小企業白書・小規模企業白書」のデータは、中小企業の7割超が「紙・口頭」または「ツール移行中」の段階にとどまり、脱Excelが進んでいない実態を明確に示しています。一方でAI活用や省力化投資に取り組んだ企業では、付加価値額の増加率や労働生産性の面で明確な差が生まれています。段階2で足踏みしないためには、ツール導入をゴールにせず、既存のExcel運用を終わらせる意思決定と、現場が使い続けられる入力ルールの整備までをセットで進めることが欠かせません。


