情報通信白書が示す中小企業のDX・生成AI活用の実態と課題

DX実態調査

「生成AIが業務を変える」と言われて久しいものの、実際に中小企業の現場でどこまで活用が進んでいるのでしょうか。その実態を客観的な数値で示してくれるのが、総務省が毎年発行する『情報通信白書』です。本記事では、総務省『令和7年版 情報通信白書』(2025年7月公表)のデータをもとに、中小企業を取り巻くDX・生成AI活用の実態と課題を整理し、そこから中小企業が取るべき対策まで踏み込んで解説します。「うちはまだ遅れているのか」「何から手を付ければいいのか」と感じている経営者・DX担当者の判断材料になれば幸いです。

情報通信白書とは

『情報通信白書』とは、総務省が毎年公表している、日本の情報通信分野の現状と課題を体系的にまとめた政府の公式レポートです。ICT(情報通信技術)の利用動向、通信インフラ、デジタル経済、近年では生成AIの普及状況など、幅広いテーマを統計データとともに扱っています。

なぜ中小企業が注目すべきなのか

情報通信白書は国全体の動向を示すものですが、その数値は中小企業の経営判断にも直結します。たとえば「同業他社や世の中全体がどの程度デジタル化・AI活用を進めているのか」を知ることは、自社の立ち位置を客観視し、過不足のない投資判断を下すうえで欠かせません。感覚ではなく公的データに基づいて現状を捉えることが、無駄な投資や機会損失を避ける第一歩になります。

本記事で扱う主なデータ

本記事では、令和7年版 情報通信白書から、生成AIの利用率、企業の導入方針、期待される効果、導入の懸念点、そしてDXが進まない企業の課題といった項目を取り上げます。あわせて、中小企業庁『2025年版 中小企業白書』の視点も補足しながら、中小企業の現実に即して解説します。

生成AI利用の実態:日本は世界比較で低水準

まず押さえておきたいのが、生成AIの利用率です。令和7年版 情報通信白書によれば、2024年度に「生成AIを使ったことがある」と回答した日本の個人は26.7%でした。前年度の約9.1%から大幅に増加しており、伸び率そのものは非常に高いと言えます。

世界主要国との比較

しかし、世界の主要国と比較すると、日本の数値は依然として低水準です。同調査では、米国68.8%、中国81.2%、ドイツ59.2%と、いずれも日本を大きく上回っています。日本は伸びてはいるものの、出発点が低く、絶対水準では各国に水をあけられているのが実情です。

生成AI利用経験者の割合
中国 81.2%
米国 68.8%
ドイツ 59.2%
日本 26.7%

(出典:総務省『令和7年版 情報通信白書』2025年7月公表)

この差が意味すること

この差は、単なる個人の利用率の問題にとどまりません。生成AIの活用が進む国では、業務効率化や新サービス創出のスピードが加速します。日本の中小企業にとっては、「世界から遅れている」という危機感である一方、「今動けばまだ追いつける、むしろ差別化の余地がある」というチャンスでもあります。前年比で約3倍に伸びている事実は、市場が急速に立ち上がっていることを示しています。

企業の生成AI導入方針:中小企業の遅れ

個人だけでなく、企業の取り組み状況も見てみましょう。情報通信白書によると、生成AIの導入方針を定めている企業は約50%に達しています。2023年の約43%から上昇しており、企業全体としては生成AI活用へ前向きな姿勢が広がっています。

大企業と中小企業のギャップ

ただし、この約50%という数値は企業全体の平均です。中小企業に限ると、導入方針を定めている企業はまだ3割前後にとどまるとされています。つまり、大企業を中心に方針策定が進む一方で、中小企業では「まだ様子見」という段階の企業が多数を占めているのが現実です。このギャップが、今後の競争力の差につながる可能性があります。

方針策定の有無が分ける差

「導入方針を定めている」かどうかは、単なる紙の上の話ではありません。方針があれば、どの業務にどう適用するか、セキュリティや運用ルールをどう整えるかという議論が進みます。逆に方針がないまま現場任せにすると、ばらつきや情報漏えいリスクが生じやすくなります。中小企業こそ、まず簡易でよいので「自社としての生成AI活用方針」を持つことが重要です。

企業が期待する効果と導入の懸念点

では、企業は生成AIに何を期待し、何を懸念しているのでしょうか。白書のデータは、中小企業が抱える課題感とほぼ重なります。

最も期待される効果

日本企業が生成AIに期待する効果として最も多いのは、「業務効率化や人員不足の解消」です。人手不足が深刻な中小企業にとって、限られた人員で業務を回すための手段として生成AIが注目されていることが分かります。定型業務の自動化、文書作成の効率化、問い合わせ対応の省力化などが、現実的な期待として挙げられます。

導入を阻む懸念点

一方、導入の懸念点として最も多かったのは「効果的な活用方法がわからない」でした。続いて「社内情報の漏えい等のセキュリティリスク」「ランニングコスト」「初期コスト」が上位に並びます。注目すべきは、最大の障壁が「コスト」ではなく「使い方がわからない」という点です。これは、ツールの問題というより知識・ノウハウ・社内体制の問題であることを示しています。

導入の懸念点(上位)
1. 効果的な活用方法がわからない(最多)
2. 社内情報の漏えい等のセキュリティリスク
3. ランニングコスト
4. 初期コスト

DXが進まない企業の根本課題

生成AI以前に、そもそもDX自体が進まないという企業も少なくありません。情報通信白書では、DXが進まない企業が抱える課題も示されています。

白書が示す主な課題

DXが進まない企業の課題として挙げられているのは、「既存システムとの整合性」「運用コストの増加」「従業員のITリテラシー不足」です。古いシステムが残っているために新しい仕組みを入れづらい、導入後の運用コストが読めない、現場の従業員がデジタルツールを使いこなせない——いずれも中小企業の現場で頻繁に聞かれる悩みです。

中小企業特有の制約

中小企業庁『2025年版 中小企業白書』でも繰り返し指摘されるとおり、中小企業には人材不足と予算制約という構造的な課題があります。DX専任の担当者を置けない、まとまった投資予算を確保しにくい、という制約のなかで、いかに優先順位をつけて段階的に進めるかが問われます。大企業のように一気に変革する余力がないからこそ、「小さく始めて効果を確かめながら広げる」アプローチが現実的です。

当協会の支援現場から見た活用事例

当協会(一般社団法人中小企業販促・DX支援協会)のDX支援現場では、白書のデータが示す課題感がそのまま相談として持ち込まれます。「使い方がわからない」「漏えいが怖い」という声は実際に最も多いものです。ここでは匿名化した形で、課題を乗り越えた3つの事例を紹介します。

事例1:建設業(従業員20名規模)

「生成AIに興味はあるが、何に使えばいいのか分からない」と相談に来た地方の建設会社。当協会では、まず日報・報告書作成という身近な業務に絞って生成AIの活用を試しました。文書作成にかかっていた時間が大幅に短縮され、現場担当者が「これなら使える」と実感したことで、社内に活用の輪が広がりました。白書が示す「効果的な活用方法がわからない」という最大の懸念を、小さな成功体験で解消した好例です。

事例2:士業事務所(従業員6名規模)

顧客情報の漏えいを強く懸念し、生成AI導入に踏み切れずにいた小規模事務所。セキュリティリスクへの不安が障壁になっていました。当協会では、社内情報の取り扱いルールを整備し、入力してよい情報・いけない情報を明確化したうえで、Google Workspace と組み合わせた安全な運用体制を設計。懸念点を整理したことで、安心して問い合わせ対応の効率化に取り組めるようになりました。

事例3:製造業(従業員45名規模)

古い基幹システムが残り、DXが進まずにいた中堅メーカー。「既存システムとの整合性」という典型的な課題を抱えていました。当協会では、いきなり全面刷新するのではなく、整合性の取りやすい周辺業務(在庫照会・社内問い合わせ)からデジタル化を進める段階的アプローチを提案。従業員のITリテラシー向上も並行して支援し、無理のないペースでDXを前進させています。生成AIやDXの実践的なヒントは当協会のDX・AI情報サイトでも継続的に発信しています。

中小企業が取るべき対策・注意点

白書のデータと支援現場の実感を踏まえると、中小企業が取るべき対策と、その際の注意点が見えてきます。

対策1:小さく始めて成功体験を作る

最大の懸念「効果的な活用方法がわからない」への処方箋は、いきなり大きく構えないことです。日報作成や文書要約など、リスクが低く効果を実感しやすい業務から試し、現場が「使える」と感じる体験を積み重ねましょう。ここで注意したいのは、最初から完璧な全社導入を目指さないこと。失敗を恐れて動けなくなるより、小さな実験を繰り返す姿勢が成果につながります。

対策2:セキュリティルールを先に整える

「漏えいが怖い」という懸念は、ルールの不在から生じることが大半です。入力してよい情報・いけない情報を明文化し、利用するツールやサービスの安全性を確認しておくことが重要です。注意点として、無料ツールを安易に業務利用すると、入力データの取り扱いが不透明な場合があること。利用規約を確認し、法人向けの安全な環境を選ぶことが求められます。

対策3:人材育成を並行して進める

「従業員のITリテラシー不足」は、ツール導入だけでは解決しません。簡単な研修や社内マニュアルの整備を並行して進める必要があります。注意点は、一度の研修で終わらせないこと。継続的に学べる仕組みを作らないと、定着せずに元の業務フローに戻ってしまいます。

対策4:補助金・外部支援を活用する

予算制約という中小企業特有の課題に対しては、国の補助金や外部の専門支援を活用するのが現実的です。自社だけで抱え込まず、使える制度や知見を取り入れることで、投資負担とノウハウ不足の両方を補えます。注意点として、補助金は手段であり目的ではないこと。あくまで自社の課題解決を軸に据えて活用してください。

まとめ

総務省『令和7年版 情報通信白書』(2025年7月公表)が示すデータからは、日本の生成AI活用が急速に伸びている一方、世界比較ではまだ低水準であり、とりわけ中小企業で取り組みが遅れている実態が浮かび上がります。生成AI利用経験者は個人で26.7%(前年度比約3倍)、企業の導入方針策定は約50%に達するものの中小企業では3割前後にとどまります。導入の最大の障壁は「効果的な活用方法がわからない」というノウハウ不足であり、コストではありません。だからこそ、中小企業が取るべき対策は明確です。小さく始めて成功体験を作り、セキュリティルールを先に整え、人材育成を並行し、必要に応じて補助金や外部支援を活用する——この4点を着実に進めれば、人材不足・予算制約という制約のなかでも確実に前進できます。世界との差は危機であると同時に伸びしろでもあります。今こそ、自社に合った一歩を踏み出すときです。

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