Google は2026年9月17日、Gemini Notebook に「Expert Intelligence」を導入したと公式ブログで発表しました。AIの回答の土台に、信頼できる情報源をユーザー自身が置けるようにする取り組みです。中小企業の実務への影響を公式発表の範囲内で整理します(2026年9月時点)。
要点3行|Expert Intelligence が Gemini Notebook から提供開始
- Google が「Expert Intelligence」を発表。信頼できる情報源をGoogleのAI製品で扱えるようにする取り組みで、まず Gemini Notebook から始まります。主要出版社の10万冊超の書籍が対象です。
- Google Play ブックスで購入した対応電子書籍を、ノートブックのソースとして直接追加できます。その本について質問すると本文に根拠を置いた回答が返り、インフォグラフィック・音声概要・クイズも生成できます。
- Rapid Release・Scheduled Release の両ドメインで提供済み。対象は Gemini Notebook・Google Play・Google ブックスが有効な Google Workspace のお客様、Workspace Individual、個人の Google アカウントです。
一次情報:Google Workspace Updates「Introducing Expert Intelligence in Gemini Notebook」(2026年9月17日)
Expert Intelligence とは?Gemini Notebook とは?
Expert Intelligence とは、著者・出版物・専門家がもつ知見を、信頼できる情報源としてGoogleのAI製品に取り込めるようにするGoogle横断の取り組みのことです。その出発点が Gemini Notebook です。
Gemini Notebook とは、資料を持ち込んで、その資料の範囲でAIに調べさせたり成果物を作らせたりする作業スペースのことです。Gemini アプリ側のノートブック機能は同日付の別発表で学校・組織にも拡大され、案件資料などを1か所にまとめて使う例が示されています。1つのノートブックに追加できるソースは最大10件です。
何が変わるのか|AIの回答の「出典」を自社で選べるようになる
生成AIの実務導入でつまずきやすいのは、答えの根拠が見えない点です。もっともらしい一般論や事実と異なる内容(ハルシネーション)が混ざっても気づけません。
今回の発表は、その手当ての一つの方向性を示します。AIに「どの土台で答えるか」を人間が指定し、購入した書籍の本文に根拠を置いた回答を返させる。出典が特定できれば、確からしさを人が検証できます。ただし、これで誤りがゼロになるわけではありません。出典を絞っても要約の過程でニュアンスはずれ得ますし、最終確認は人の仕事として残ります。
考え方は、自社文書をAIの回答根拠にする仕組みと同じ系統です(参考:RAGとは?社内文書をAIに答えさせる仕組みと中小企業の始め方)。そこに、自社では持ち得ない外部の出版物という土台が加わりました。
中小企業への影響|社内教育と、属人的な知見の補完
中小企業にとって効きそうな場面は二つあります。一つは社内教育・マネジメント研修の教材化です。公式が挙げた例の一つは、管理職がマネジメントの書籍を参照しながら、部下へのフィードバックや難しい会話の進め方を考える使い方でした。研修の外注費や日程調整をかけずに、書籍を土台に自社の状況へ引き寄せて考える。人事専任者を置けない規模ほど差が出やすい領域です。
もう一つは属人的な知見の補完です。ベテラン1人に判断が集中している業務は、その人の不在中に止まります。自社の手順書と外部の書籍を同じノートブックに入れ、新人が自分で問いを立てられる状態にできれば、聞ける相手が増えたのに近い効果が見込めます。音声概要やクイズの生成は、理解度の確認まで含めた教材化に使えます。
コスト面は書籍代が中心ですが、効果は入れる資料と問いの立て方に左右されます。
見落とせない前提条件|Gemini Notebook 書籍の購入と対象範囲
- 対象書籍を購入している必要があります。無料では使えません。共有されたノートブックでも、受け取った側がその電子書籍を購入していなければ質問や成果物の作成はできず、1冊を回し読みする使い方はできません。
- 日本語環境で、日本の出版社の書籍がどの程度対象かは公式発表からは確認できません。「10万冊超」は全体の規模であり、日本語書籍の対象範囲を示すものではありません。海外発の発表であり、日本の商習慣でそのまま使えるとは限りません。
- 書籍1冊の無償提供は、米国の18歳以上・在庫がある間という条件付きで、日本での提供可否は公式発表からは確認できません。
- 管理者側は、利用者が Gemini Notebook・Google Play・Google ブックスが「ON」の組織部門に所属していることが条件です(エンドユーザー側の設定はありません)。教育機関向けには管理者が一括購入・配布する方法も案内されています。
あわせて、書籍の内容をAIに読ませて社内資料に転用する場合は、著作権および各サービスの利用規約の範囲内で行う必要があります。本記事は法令解釈や個別案件への助言ではありません。判断に迷う場合は専門家にご確認ください。
今すぐできる一歩|中小企業が低コストで試す3ステップ
第1に、管理コンソールで設定状況を確認します。Gemini Notebook・Google Play・Google ブックスが対象の組織部門で「ON」かを見るだけで、費用はかかりません。対象書籍かは、Google Play ブックスの書籍詳細ページで「Tools」バッジから Gemini Notebook が表示されるかで判別できます。
第2に、書籍を買う前に、自社資料だけでノートブックを1つ作ってみます。業務マニュアルや直近の議事録など、社外秘でないものを数点。AIが自社の文脈で答える感触をつかめます。
第3に、そのうえで書籍を1冊だけ購入して比較します。自社資料のみの回答と書籍を加えた回答を、同じ問いで並べます。差が出なければ、貴社の課題は別のところにあります。
当協会の視点|ツールより先に「何を土台にするか」
本質的なのは、書籍が読めること自体よりAIの回答の土台を選べるようになった点です。裏を返せば、土台となる自社資料が整理されていない会社では効果は限定的です。業種や領域に特化したAIをどう業務に据えるかという論点とも重なります(参考:業種特化AIとは何か/Gemini が MCP で外部ツールと直接連携)。
当協会では、業務の棚卸しからAIに何を読ませるかの設計、社内定着までを伴走しています。
まとめ
Expert Intelligence は、購入した書籍を Gemini Notebook の出典にできる機能として2026年9月に提供が始まりました。社内教育や属人化の補完に効く可能性がある一方、購入が前提で、日本語書籍の対象範囲は公式発表から読み取れないなど、確認点も残ります。まずは設定確認と自社資料だけの小さな試行から始め、効果を確かめてから広げるのが現実的です。


