DX推進担当者の選び方と育て方|兼任でも成果を出す役割設計

DX推進

「DXを進めたいが、誰に任せればいいのか分からない」「情報システムの担当者がいないので、総務の人に兼任でお願いしたものの、全く進まない」。中小企業のDX支援で、当協会が最もよく聞く悩みの一つが、DX推進担当者をめぐる問題です。ツールの選定や補助金の相談以前に、「誰が旗を振るのか」が決まっていないために、数か月たっても何も動かない、というケースは珍しくありません。

本記事では、DX推進担当者に求められる役割、選び方、育て方、兼任でも成果を出すための運用の型を、当協会の支援現場の知見を交えて解説します。大企業のように専任のDX部門を置けない中小企業が、限られた人材で成果を出すための考え方を中心にまとめます。

DX推進担当者とは

DX推進担当者の役割は「ITに詳しい人」ではない

DX推進担当者というと、システムに詳しい人、パソコンが得意な人をイメージしがちです。しかし、DXの中心は「業務を変えること」であり、ITの技術的な知識は二の次です。担当者に求められるのは、次の3つの役割です。

  • 現場の課題を聞き出し、整理する(課題の翻訳者)
  • 経営者と現場、外部の支援者の間をつなぐ(調整役)
  • 小さな改善を実行し、成果を社内に見せる(実行役)

ツールを選ぶのは、課題と目的が決まったあとです。担当者の本質的な仕事は、「何を変えるのか」を決める手前にあります。

経営者・担当者・現場の役割分担

DXは、担当者1人に任せても進みません。次のように、役割を分けて考えます。

立場 主な役割 やってはいけないこと
経営者 DXの目的と優先順位を決める、予算と時間を確保する、担当者の背中を押す 丸投げする、成果を急ぎすぎる
DX推進担当者 課題の整理、改善案の企画、ツールの選定・導入、社内の調整 1人で抱え込む、技術の話ばかりする
現場メンバー 課題の提供、試用、改善案のフィードバック 新しいやり方を拒否して放置する

経営者の関与が薄いと、担当者は「頼まれたから、やっている」状態になり、社内の協力が得られません。

DX推進担当者の選び方と育て方

選ぶときの5つの基準

中小企業では、次の5つの基準で候補者を選ぶと、成功しやすい傾向があります。

  • 社内の業務を広く理解している(特定部署しか知らない人は避ける)
  • 現場の人から信頼されている
  • 新しいことを面倒がらずに試せる
  • 経営者に意見を言える立場、または関係性がある
  • 人に説明するのが苦にならない

ITのスキルは、あとから補えます。逆に、現場の信頼がない人が担当になると、改善の提案がなかなか受け入れられません。

避けたい選び方

次のような選び方は、失敗につながりやすいので注意してください。

  • 「パソコンに詳しいから」という理由だけで選ぶ
  • 業務が余っている人に任せる(権限や影響力が弱い場合が多い)
  • 年配の人、若手の人など、年齢で決めつける
  • 本人の意思を確認せず、任命だけで済ませる

当協会の支援でも、担当者本人が「自分で本当にやれるのか」と不安を抱えている場合は、最初の3か月は外部の支援者が伴走し、小さな成功体験を一緒に作る形を取ります。

育てるための3つの方法

DX推進担当者の育成には、次の3つの方法を組み合わせます。

  • 実践を通じて学ぶ:いきなり大きなプロジェクトではなく、「会議の議事録の共有方法を変える」など、小さな改善を1つ実行してもらう
  • 外部の学びの機会を使う:セミナー、研修、他社の事例を聞く機会に参加する。商工会議所、支援機関、IPA(情報処理推進機構)などが提供する資料も活用できる
  • 社内の学びの場をつくる:月に1回、担当者が学んだこと、試したことを共有する場を設ける

研修費用には助成金が使える場合がある

DXやITに関する研修は、人材開発支援助成金などの対象になる場合があります。ただし、対象となる訓練の要件、助成率、申請の期限は制度ごとに異なり、変更されることもあります。最新情報は必ず厚生労働省・労働局の公式サイトでご確認ください。

兼任でも回せる運用の型

週1時間から始める「固定枠」をつくる

専任を置けない会社では、担当者が他の業務に追われて、DXが後回しになります。対策は、週に1時間(または月に2〜3時間)を、DX推進の業務時間として固定で確保することです。会議の枠をカレンダーに入れ、経営者も合意しておきます。

「課題リスト」と「やることリスト」を1枚にまとめる

担当者が1人で抱え込まないために、次の2つを、スプレッドシートなどの1枚のシートで管理します。

  • 課題リスト:現場から出た「困っていること」を、誰が、いつ、何について言ったか、記録する
  • やることリスト:課題ごとの改善案、担当者、期限、状況

誰でも見られる状態にしておくと、現場からの提案も集まりやすくなります。

月に1回、小さな成果を社内に共有する

「議事録の作成時間が、1回あたり30分短縮された」「請求書の入力ミスが減った」など、小さな成果を、月に1回、全社に共有します。成果が見えると、次の改善への協力が得やすくなります。

外部の支援者を上手に使う

全部を内部でやる必要はありません。ツールの選定、補助金の申請、現場への説明など、専門性が必要な部分は、外部に任せる方が早く、確実です。外部支援者に求めるのは、「作業の代行」だけでなく、「担当者が自力で回せるようになるまでの伴走」です。

活用事例

当協会の支援現場の相談を、守秘義務に配慮して一般化し、業種・規模のみを示す形で紹介します。

事例1:製造業(従業員45名)— 総務担当が兼任で議事録・申請業務のデジタル化を主導

専任の担当者がおらず、総務担当者が兼任で進めた例です。最初に「週1時間のDX時間」を経営者と合意し、社内で最も不満の多かった「紙の申請書」の電子化から着手しました。小さな成功を重ねたことで、現場からの相談が自然に集まるようになりました。

事例2:サービス業(従業員20名)— 若手と経営者のペアで推進

若手社員1名を担当者に任命し、経営者が月に1回、進捗を確認する形にした会社です。若手が現場の課題を拾い、経営者が優先順位と予算を決める、という分担が機能しました。若手が孤立しないよう、外部の支援者が最初の3か月、毎月の打ち合わせに同席しました。

事例3:卸売業(従業員30名)— 部署ごとの「DX窓口」を置く

DX推進担当者1人では、各部署の課題を拾いきれないため、営業、経理、物流の各部署に1名ずつ「窓口」を置いた会社の例です。窓口は兼任で、月に1回の集まりで課題を共有します。担当者1人に負荷が集中せず、各部署の事情に合った改善が進みました。

デメリット・注意点

兼任は本業との板挟みになる

兼任の場合、本業が忙しい時期にはDXが止まります。対策は、繁忙期の見通しを事前に共有し、その時期は「休む」と決めておくことです。無理に進めようとすると、担当者が疲弊します。

担当者の退職・異動で止まるリスクがある

特定の1人に依存すると、その人が辞めた時点でDXが止まります。対策は、課題リスト、設定内容、ツールの契約情報などを、共有の場所に文書として残し、副担当を置くことです。

成果が見えにくく、評価されにくい

DXの成果は、「ミスが減った」「時間が短くなった」といった、目に見えにくい形で現れます。担当者の評価が不透明だと、やる気を失います。成果の指標(作業時間、ミスの件数など)を最初に決め、評価に反映させてください。

外部への依存が強すぎると、社内に力が残らない

外部の支援者に任せすぎると、契約が終わったあと、社内で回せなくなります。対策は、「いつまでに、どこまで社内で自走できるようにするか」を、契約時に決めておくことです。

ツールの知識だけを教える研修は効果が薄い

ツールの操作を学んでも、自社の業務にどう活かすかが分からなければ、成果につながりません。研修は、自社の具体的な課題と結びつけて設計してください。

よくある失敗パターンと対策

失敗1:任命だけして、時間と権限を与えない

「DX担当者に任命する」と言うだけで、時間も予算も与えない例です。対策は、週何時間を使えるか、いくらまで使えるかを、明確にすることです。

失敗2:最初から大きなシステムを入れようとする

全社の基幹システムの刷新など、大きな目標から入ると、現場の抵抗が強く、頓挫しやすくなります。対策は、小さな業務改善から始め、成功してから広げることです。

失敗3:現場の声を聞かずに進める

担当者が机上で選んだツールが、現場に合わないという例です。対策は、導入前に現場の代表に使ってもらい、意見を聞くことです。

失敗4:ツール選びが目的になる

「どのツールがいいか」の比較に時間をかけすぎて、肝心の課題の整理が進まない例です。対策は、課題と目的を先に決め、ツールは「道具」として最後に選ぶことです。

まとめ

DX推進担当者は、ITに詳しい人ではなく、現場の課題を整理し、経営者と現場をつなぎ、小さな改善を実行できる人です。選ぶときは、業務の理解、現場からの信頼、新しいことを試す姿勢を重視し、育成は小さな実践と外部の学びを組み合わせます。兼任の場合は、週1時間の固定枠、課題とやることの1枚管理、月1回の成果共有という型を用意すると、回りやすくなります。

まずは、候補者に本人の意思を確認し、経営者が「何のために、どこまで任せるか」を明確に伝えることから始めてください。当協会のDX・AI情報サイト(https://dx-ai.seed.or.jp/)では、DXの進め方や現場の抵抗への対応など、関連するテーマを継続的に取り上げています。助成金や研修制度の内容は変更されることがあるため、最新情報は必ず公式サイトをご確認ください。

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