DXセレクション2026とは|経産省が選ぶ中小企業DX優良事例11社と応募方法

DX実態調査

「DXに取り組みたいが、自社の規模で何をどこまでやれば『できている』と言えるのかがわからない」。中小企業の経営者の方から、当協会が最も多くいただくご相談のひとつです。社内だけで基準をつくろうとすると、どうしても「ツールを入れたかどうか」という話に落ち着いてしまいます。

そこで参考になるのが、経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が実施している「DXセレクション」です。2026年5月20日の最終選考・表彰式を経て、グランプリ1者、準グランプリ2者、優良事例8者の計11者が「DXセレクション2026」として選ばれました。

本記事では、制度概要と選定結果を整理したうえで、応募予定がない企業でも使える「自社のDXの現在地を測るものさし」としての活用方法と注意点を解説します。

DXセレクション2026とは|経産省とIPAが選ぶ中堅・中小企業のDX優良事例

制度の定義と実施主体

DXセレクションとは、デジタルガバナンス・コードに沿った取組を通じてDXによる成果を創出している、中堅・中小企業等のモデルケースとなる優良事例を選定する制度のことです。経済産業省(商務情報政策局 情報技術利用促進課)とIPAが実施しています。

目的は表彰ではなく、優良事例を公表することで他の中堅・中小企業のDX推進や各地域での取り組みの活性化につなげることに置かれています。詳細は経済産業省のDXセレクションページおよびIPAのDXセレクションページで公表されています。

大企業向け「DX銘柄」との違い

DX関連の選定制度としては「DX銘柄」が知られていますが、こちらは主に上場企業が対象です。DXセレクションは中堅・中小企業等を対象にした別枠の制度として設計されています。

この違いは実務上重要です。DX銘柄の事例は専任部門や大規模投資を前提にしていることが少なくありませんが、DXセレクションで選ばれるのは限られた人員と予算の中で成果を出した企業だからです。

2022年開始・延べ83者という実績

DXセレクションは2022年から実施されており、これまでに延べ83者が選定されています。毎年の選定企業レポートが積み上がっているため、同じ業種・規模帯の事例を探しやすい点も特徴です。

DXセレクション2026の選定結果と次回の応募スケジュール

選定された11者の一覧

区分 企業名 所在地
グランプリ プーラビダ株式会社 福岡県
準グランプリ 株式会社ヒューマングループ 長崎県
準グランプリ 三行合成樹脂株式会社 新潟県
優良事例 コマツ株式会社 大阪府
優良事例 株式会社川六 香川県
優良事例 株式会社ヤマナミ麺芸社 大分県
優良事例 株式会社エヌエスケーケー 兵庫県
優良事例 株式会社ネクサスエージェント 大阪府
優良事例 旭光電機株式会社 兵庫県
優良事例 株式会社加藤工務店 愛知県
優良事例 株式会社三城 北海道

各社の具体的な取組内容は、経済産業省が2026年6月に公表した「『DXセレクション2026』選定企業レポート」に掲載されています。あわせて「DXセレクション2026審査項目の分析」も公表されています。

地域・業種の分布から読み取れること

まず目を引くのは、所在地が北海道から九州まで全国に分散している点です。長崎県、新潟県、香川県、大分県の企業が上位に入っており、DXが都市部だけの話ではないことが読み取れます。

業種の幅も広く、製造、建設、小売、サービス、人材といった領域にまたがります。「うちの業界は特殊だからDXには向かない」という声を当協会も現場でよく伺いますが、業種が理由で除外されている様子はありません。

次回の応募スケジュールと応募様式

次回の応募様式は経済産業省とIPAから既に公表されています。募集は12月1日開始・12月22日締切のスケジュールで運用されてきました(2026の募集は2025年12月1日開始・12月22日締切)。説明会資料も公開されています。

なお、募集期間や応募要件は年度ごとに変更される可能性があります。最新の応募要件・日程は経済産業省およびIPAの公式サイトをご確認ください。

デジタルガバナンス・コードと、選ばれる企業に共通する進め方

デジタルガバナンス・コードとは

デジタルガバナンス・コードとは、デジタル技術による社会変化を踏まえて経営のあり方を見直すにあたり、経済産業省が示している指針のことです。DXセレクションは、このコードに沿った取組で成果を出している企業を選ぶ制度です。

重要なのは、コードが求めているのが「どのツールを導入したか」ではない点です。経営ビジョンや戦略があるか、実行する体制・組織があるか、成果が出ているか、社外に開示しているか。おおむねこうした観点から、取組の一貫性が問われます。

主語が「経営者」であることの意味

最も大切なのは、主語が経営者であるということです。DXを情報システム部門の話として切り出すと、コードが想定している構造から外れてしまいます。

当協会が中小企業のDX支援を行う中で最も多く出会うのが、「ツールは入れたが、経営として何を変えたいのかが言語化されていない」状態です。グループウェアもチャットも導入済み。それでも何がどう良くなったのかを経営者が自分の言葉で説明できない。審査観点は、まさにそこを問うています。

選ばれる企業に共通する5つの進め方

個社の施策をそのまま真似ることはできませんが、審査観点と当協会の支援経験を重ねると、成果が出る企業に共通する型が見えてきます。

  • 経営者自身が目的を言語化する:「人手不足に対応する」では曖昧です。「間接業務を減らし、同じ人数で受注を増やす」程度まで具体化します。
  • 現場の業務課題から逆算する:日報、見積、在庫、シフトなど、担当者が毎日時間を使っている作業のうち、目的に最も近いものから手をつけます。
  • データを取る仕組みを先に整える:記録がデジタルで残る状態をつくることが、遠回りに見えて最短経路です。分析の高度化はその後で構いません。
  • 小さく始めて横展開する:1部門・1拠点で3か月試し、得た運用ルールごと他部門へ広げます。試行段階で「やめる基準」も決めておきます。
  • 取組を社外に公開する:開示はコードの観点にも含まれます。社外に説明する前提で整理すると、内容の精度が上がります。

これらの観点は、応募する気がなくても「自社のDXの現在地を測るチェックリスト」として使えます。当協会の支援現場では、まず「経営者が3行で言えるDXの目的」を書き出すところから始めています。3行で書けなければ、社内の誰にも伝わっていないと考えたほうが安全です。DX顧問(一般社団法人中小企業販促・DX支援協会)でも、この言語化を最初の工程に置いています。

活用事例|審査観点に沿って整理し直した中小企業の取組

当協会がDX支援の現場で関わった取組を、審査観点に沿って整理し直した例を3件ご紹介します。守秘義務に配慮した匿名の事例です。

事例1:製造業のお客様(従業員30名規模)

課題:作業日報が紙で運用され、不良が発生しても原因を振り返る材料が残っていませんでした。「感覚では増えている気がする」以上の議論ができない状態です。

やったこと:日報をノーコードアプリに置き換え、工程・担当・発生事象を選択式で入力できるようにしました。入力項目は現場の負担を考えて絞り込みました。

効果:不良発生率の推移を初めて数値で追えるようになり、工程ごとの偏りが可視化されました。日報記入にかかる時間も従来より短くなっています。

事例2:建設業のお客様(従業員20名規模)

課題:現場写真の整理と報告書作成が夜間や休日の事務作業になっており、残業が慢性化し、提出遅れも発生していました。

やったこと:撮影した写真が自動的に現場ごとに振り分けられる仕組みを整え、報告書の定型部分を自動生成できるようにしました。

効果:事務作業の時間を大きく削減でき、提出までのリードタイムも短縮しました。担当者の時間を現場確認に戻せた点が大きな変化です。

事例3:サービス業のお客様(従業員15名規模)

課題:問い合わせ対応の履歴が個人のメールや手帳に残っており、担当者が不在だと過去の経緯がわからず、対応品質に差が出ていました。

やったこと:問い合わせ履歴を一元管理できる環境を整備し、Google Workspace上で共有する運用に切り替えました。よくある質問への回答は定型文として整理しています。

効果:誰が対応しても同じ情報を参照でき、属人化していた顧客対応が標準化されました。初回回答までの時間も短くなっています。

応募・DX推進の際のデメリット・注意点

制度の活用には負担もあります。着手前に把握しておきたい点を整理します。

応募書類の作成に相応の工数がかかる

応募には取組の背景・実施内容・成果を整理した書類が必要です。特に成果を数値で示す部分は、データが整理されていない企業ほど時間を要します。担当者1人に任せきりにせず、経営者が関与する前提で工数を見積もります。

取組の社外公開に伴う情報整理の負担

選定された場合、取組内容はレポートとして公表されます。業務プロセスや課題をどこまで開示するかは、取引先との関係や競合への影響も含めた事前整理が必要です。公開範囲を社内で合意しないまま進めると、後から調整が発生します。

受賞を目的化すると現場が疲弊する

最も避けたいのが、応募すること自体が目的になる状態です。書類の見栄えを整える作業が増え、現場には「受賞のための仕事」が上乗せされます。経営課題を解決した結果として応募する順序を守ります。

単年度の成果だけでは語れない

DXの効果は、導入直後より運用が定着してから現れることが多くあります。数か月で数値が出ない取組を「失敗」と判断すると、本来伸びるはずだった施策が途中で止まります。評価のタイミングは着手時に決めておきます。

よくある失敗パターンと対策

当協会が支援の現場で繰り返し目にする、典型的なつまずき方です。

パターン1:ツール導入が目的化する

症状:複数のツールを契約しているのに現場の業務量が減らず、使われていないアカウントの費用だけが毎月発生している。

原因:目的が言語化される前に機能比較から入ったためです。判断基準が「機能が多いか」になり、「自社の何が変わるか」が抜け落ちます。

対策:導入判断の前に目的を3行で書き出し、「この3行に効かないツールは今回は見送る」と決めると選定が楽になります。

パターン2:担当者1人に丸投げする

症状:詳しい社員が1人で推進しているが他部門の協力が得られず、その担当者が異動・退職すると取組ごと止まる。

原因:DXが情報システムの話として扱われ、業務フローを変える権限が担当者にないためです。

対策:経営者が推進の責任者となり、担当者は実務を担う役割に位置づけ直します。月1回は経営者が進捗を確認する場を設けます。

パターン3:効果を測る数値を決めていない

症状:導入から1年経っても、成果を聞かれると「便利にはなった」としか答えられず、次の投資判断ができない。

原因:着手時に測定項目とデータの取得方法を決めていなかったためです。振り返ろうにも、比較する前の数値が残っていません。

対策:着手前に「何を・どの頻度で・誰が測るか」を1行ずつ決めます。処理件数や所要時間など、取りやすいものから始めます。

まとめ

DXセレクション2026は、経済産業省とIPAが中堅・中小企業等を対象に実施している優良事例の選定制度です。2026年5月20日の表彰式で計11者が選ばれ、2026年6月には選定企業レポートと審査項目の分析が公表されています。

制度は「ものさし」として使える

選定企業の取組をそのまま真似る必要はありません。それよりも、土台にあるデジタルガバナンス・コードの観点を借りて、経営ビジョン・戦略/体制・組織/実行と成果/開示という4つの切り口で自社を点検することに価値があります。この点検は今日から実施できます。

次の一歩

応募を検討される場合は、応募様式と説明会資料を早めに確認し、成果を示すデータの整理から着手してください。最新の応募要件・日程は経済産業省およびIPAの公式サイトをご確認ください。まずは現在地を把握したいという段階であれば、目的の言語化からご一緒することも可能です。

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