「AIに毎回同じ説明をするのが手間」「担当者によってAIの使い方がバラバラ」。生成AIを業務に取り入れた中小企業で、よく聞かれる悩みです。こうした悩みへの一つの答えとして注目されているのが、業務の手順をスキル(SKILL.md)というファイルにまとめ、AIエージェントに読み込ませる「Agent Skills」の考え方です。
この記事では、Agent Skillsの基本から、自社の業務手順をスキルとして作る具体的な手順、書き方のコツと注意点までを、特定のAIツールに偏らずに解説します(2026年10月時点の情報です)。発表直後の動きを知りたい方は、先にAgent Skills AAIF寄贈の速報をご覧ください。本記事は、その内容を土台に「作り方」へ焦点を当てた常緑ガイドです。
Agent Skillsとは?SKILL.mdの定義と仕組み
Agent Skillsの定義
Anthropicの発表(2026年10月22日)によると、Agent Skillsは「SKILL.mdファイルを含むフォルダ」で、AIエージェントに特定のタスクや専門領域のやり方を教えるためのオープン標準です。フォルダの中には、SKILL.mdのほか、スクリプトや参考資料を入れることもできます。
これまでの経緯とAAIFへの寄贈
Anthropicの発表では、Agent SkillsはClaude Codeの開発の中で生まれ、2025年10月に提供が始まり、2025年12月にオープン標準として公開されました。そして今回、標準そのもの、名称とロゴ、GitHub組織、agentskills.ioのドメインが、Linux Foundation傘下のAgentic AI Foundation(AAIF)へ寄贈されたと発表されています。
同じ発表では、次の数値が示されています(いずれもAnthropic発表の数値で、当協会が独自に確認したものではありません)。
- 統合しているエージェントプラットフォーム:70以上(ChatGPT、Cursor、GitHub Copilot、VS Codeなど)
- 公開されているスキル:100万件
- インストール数:約2.8億件
また、今後のロードマップ案として、バージョン付きリリース、正式な提案プロセス、スキルの作成者・導入者向けのセキュリティガイダンスが挙げられています。ただし、提案段階であり詳細は公表されていません。一次情報はAnthropicの発表ページで確認できます。
スキルのフォルダ構成
公式仕様(agentskills.io の仕様)では、スキルは「SKILL.mdを必須とするディレクトリ」です。必要に応じて、次のサブフォルダを追加できます。
- scripts/:実行用のスクリプト
- references/:詳しい参考資料
- assets/:テンプレートなどの素材
SKILL.mdは、先頭の「YAMLフロントマター」(設定情報)と、その後ろの「Markdown本文」(手順の説明)で構成されます。専門用語に見えますが、設定を書く欄と、普通の文章を書く欄が一つのファイルに同居している、というだけの話です。
段階的開示:3段階で必要な分だけ読み込む仕組み
Agent Skillsの特徴的な設計が「段階的開示」です。AIが一度にすべてのスキルを丸ごと読み込むのではなく、必要になった時点で必要な分だけ読む仕組みになっています。仕様では次の3段階が示されています。
- 発見:起動時には、各スキルのnameとdescriptionだけを読み込みます。目安は1スキルあたり約100トークンです。
- 有効化:依頼内容がdescriptionに合致したとき、SKILL.mdの全文を読み込みます。SKILL.mdは5,000トークン未満が推奨されています。
- 実行:必要に応じて、scriptsのスクリプトやreferencesの参照ファイルを読み込み、実行します。
この設計のおかげで、スキルを多く用意しても、普段は名前と説明だけが読まれ、AIの作業の邪魔になりにくいと考えられます。裏返すと、descriptionがスキルの「入口」です。AIが「このスキルを使うべき場面だ」と判断できるかどうかは、descriptionの書き方に大きく左右されます。
中小企業にとっての意味:Agent Skillsを使う可能性
ここでは、Agent Skillsが中小企業にもたらす可能性を整理します。いずれも効果を保証するものではなく、「こうなる可能性がある」という見立てです。
コスト面の可能性
スキルの実体は、テキストファイルを入れたフォルダです。作成自体には、特別な開発環境や高額な専用ソフトが必須とは限りません。メモ帳やテキストエディタがあれば、最初の一本を書き始められます。ただし、スキルを実際に動かすAIツール側の対応状況や料金は、サービスごとに異なります。導入前に、各サービスの公式情報でご確認ください。
業務面の可能性
見積書の下書き、問い合わせへの返信、議事録の整理など、毎回同じ流れで進める定型業務は、スキルにしやすい候補です。手順を一度書き出しておけば、AIへの説明を毎回やり直す手間が減る可能性があります。
人材面の可能性
特定のベテラン社員の頭の中にある「やり方」は、退職や異動のたびに失われがちです。手順をSKILL.mdとして文章に残す作業は、結果として業務の棚卸しや属人化の解消につながる可能性があります。AIを使わない場面でも、手順書として役立つ点は見逃せません。
競合との関係
同じAIツールを使っていても、自社の手順や判断基準を整理して渡せているかどうかで、出力の質に差が出ることは十分考えられます。スキルとして蓄積した業務ノウハウは、自社独自の資産になり得ます。各ツールの対応状況は、公式情報での確認が必要です。
より広いAIエージェント基盤の考え方はAIエージェント基盤とはも参考にしてください。
Agent Skillsの作り方:6ステップで業務手順をスキル化する
ここからが本題です。無料・低コストで始められる範囲から、段階的に進める流れを紹介します。
ステップ1:スキル化する業務を選ぶ
最初の一本は、次の条件に当てはまる業務がおすすめです。
- 週に何度も繰り返す定型業務である
- 手順や判断基準を、言葉で説明できる
- 失敗しても影響が小さい(社外に出る前に人が確認できる)
例としては、見積書の下書き、問い合わせ返信の型づくり、会議メモの整理などがあります。逆に、最初から契約や経理の最終判断のような重い業務を選ぶのは避けましょう。
ステップ2:手順を棚卸しする
いきなりSKILL.mdを書かず、まず担当者が普段どう進めているかを箇条書きにします。次の観点で書き出すと整理しやすくなります。
- きっかけ:どんな依頼や出来事で始まるか
- 入力:何の情報・資料が必要か
- 手順:どの順番で何をするか
- 判断基準:迷ったときのルールは何か
- 出力:最終的に何をどんな形で出すか
- 人の確認:誰がどこで確認するか
この段階では、担当者本人に「普段無意識にやっていること」を話してもらうのがコツです。手順の抜け漏れは、後からテストで見つかります。
ステップ3:SKILL.mdを書く
棚卸しの内容を、SKILL.mdの形に整えます。公式仕様で定められている主な項目は次のとおりです。
| 項目 | 必須 | 内容・ルール |
|---|---|---|
| name | 必須 | 1〜64文字。小文字の英数字とハイフンのみ。先頭・末尾のハイフンと連続ハイフンは不可。親ディレクトリ名と一致させる |
| description | 必須 | 1〜1024文字。「何をするか」と「いつ使うか」を書く |
| license | 任意 | ライセンス情報 |
| compatibility | 任意 | 500文字以内。動作環境などの注意 |
| metadata | 任意 | 補足情報 |
| allowed-tools | 任意 | 実験的な項目 |
以下は、架空の汎用例として「見積書の下書き」をスキル化した最小のSKILL.mdです。実際の社名や顧客情報は含めていません。
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name: estimate-draft
description: 依頼メモから見積書の下書きを作成する。見積書や御見積の作成依頼があったとき、または案件メモと単価表が渡されたときに使う。
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# 見積書の下書き作成
## 手順
1. 依頼メモから、品目・数量・納期・特記事項を抜き出す
2. 単価表(references/price-list.md)と照らし、金額を計算する
3. 不明な項目は推測せず、「要確認」として一覧にする
4. 下記の出力形式で下書きを作る
## 出力形式
- 品目 / 数量 / 単価 / 小計 の表
- 合計金額(税抜・税込)
- 確認が必要な事項のリスト
## 注意
- 下書きであり、送付前に必ず担当者が内容を確認する
- 個人情報や取引先名は、このスキルのファイルに書き込まない
書き方のポイントは、次の二つです。
- nameは、保存するフォルダ名と一致させる(この例ならestimate-draftというフォルダ)
- 本文は「手順」「出力形式」「注意」のように、見出しで区切って読みやすくする
ステップ4:実際の依頼でテストする
書き上げたら、実際の業務に近い依頼を数パターン試します。確認すべきは次の点です。
- 依頼したときに、意図したスキルが呼び出されるか(descriptionが機能しているか)
- 手順どおりに出力されるか
- わからない点を、勝手に埋めずに「要確認」としているか
- 顧客情報などの機密を、スキルのファイルに入れていないか
なお、公式の検証ツールとして「skills-ref」が存在すると仕様に記載されています。フォーマット上の誤りを確認したい場合は、利用を検討できます。使い方の詳細は公式情報をご確認ください。
ステップ5:改善する
テストで出た問題を、SKILL.mdに反映します。よくある改善は次のとおりです。
- スキルが呼ばれない:descriptionに「いつ使うか」の具体的な場面を足す
- 出力がぶれる:出力形式を、具体的な例つきで書く
- 余計な推測をする:「不明な場合は推測せず確認する」と明記する
一度で完璧を目指さず、実務で使いながら少しずつ直していくのが現実的です。
ステップ6:社内に展開する
一人で使って手応えがあったら、チームに広げます。展開のときは、次のルールを決めておくと混乱を防げます。
- スキルの置き場所と、更新できる担当者
- スキルの一覧と、それぞれの目的・担当者を記録する台帳
- 更新したときの連絡方法
- AIの出力を人が確認する運用ルール
AIの利用ルール全般については、生成AI利用ガイドラインの作り方もあわせてご覧ください。
スキルの書き方のコツと、やってはいけないこと
書き方のコツ
- descriptionに「何をするか」と「いつ使うか」を書く:AIが最初に読むのはnameとdescriptionだけです。「見積書の下書きを作る」だけでなく「見積依頼や案件メモが渡されたとき」まで書くと、呼び出されやすくなります。
- SKILL.mdは500行以内を目安にする:仕様でも500行以内が推奨されています。長くなりすぎたら、手順の要点だけを本文に残します。
- 長い資料はreferencesへ分ける:単価表、用語集、詳しい規程などは参照ファイルに切り出し、本文からは「必要に応じてreferences/○○を参照」と案内します。参照は1階層までにとどめるのが仕様上の推奨です。
- 判断に迷う場面の扱いを書く:「金額が不明なら確認する」など、止まるべきポイントを明記します。
やってはいけないこと
- 顧客情報・機密情報をスキルに書き込まない:スキルはフォルダとして共有・複製されやすいものです。個人情報、取引先の固有情報、認証情報(パスワードやAPIキー)は含めないでください。
- 出所のわからない第三者スキルをそのまま使わない:スキルにはスクリプトを含められます。作成者、配布元、更新状況、権限(どのファイルやツールを操作するか)を確認し、中身を読んでから使いましょう。公開スキルが多数あることは、品質や安全性が担保されていることを意味しません。
- AIの出力を無確認で社外に出さない:見積書や返信文のような社外向けの成果物は、人の最終確認を必須にします。
セキュリティについては、前述のとおりAAIFのロードマップ案に、スキルの作成者・導入者向けのセキュリティガイダンスが含まれていますが、提案段階で詳細は公表されていません。公式の動向を継続して確認することをおすすめします。
Agent Skillsのよくある質問
Q1. Agent Skillsは無料で使えますか?
スキルの形式(SKILL.mdを含むフォルダ)自体は、オープン標準として公開されています。ただし、スキルを実行するAIツール側の料金やプラン条件、対応状況、日本での提供範囲については、公式情報では確認できていません。ご利用予定のサービスの公式情報をご確認ください。
Q2. プログラミングの知識は必要ですか?
SKILL.mdの本文は、Markdownという簡単な記法の文章です。手順を文章で書くだけのスキルであれば、プログラミングの知識は必須ではないと考えられます。一方、scriptsにスクリプトを入れて処理を自動化する場合は、その分の知識が必要になります。まずは文章だけのスキルから始めるのが現実的です。
Q3. GemsやカスタムGPTとの違いは何ですか?
GemsやカスタムGPTは、各サービスが提供する独自の機能です。一方のAgent Skillsは、SKILL.mdを含むフォルダという形式を定めたオープン標準で、複数のエージェントプラットフォームが統合していると発表されています。ただし、各機能の詳細な違いや、互換性・移行の可否については、公式情報では確認できません。Geminiの動向については、Gemini スキルとはで整理しています。
Q4. 社外で公開されているスキルは安全ですか?
一概に安全とは言えません。スキルには、スクリプトや参考資料を含められます。利用する前に、作成者や配布元、更新状況を確認し、SKILL.mdとスクリプトの中身を読んで、どんな操作をするのかを把握してください。社内の業務で使う場合は、利用してよいスキルの範囲を社内ルールで定めておくと安心です。なお、公開スキルの件数やインストール数は、安全性を示す数値ではありません。
Q5. 何から作ればよいですか?
週に何度も繰り返し、手順を言葉で説明でき、人が最終確認できる業務が最適です。たとえば、見積書の下書き、問い合わせ返信の型、会議メモの整理などです。判断が難しい業務や、ミスの影響が大きい業務は、慣れてからにしましょう。
Q6. Claudeを使っていない場合でも役に立ちますか?
Anthropicの発表では、ChatGPT、Cursor、GitHub Copilot、VS Codeなど70以上のプラットフォームが統合しているとされています。ただし、各ツールのスキル対応状況や、使える範囲、料金は公式情報で確認できていません。導入前に、ご利用中・ご検討中のサービスの公式情報で確認してください。
当協会の支援メニュー
一般社団法人中小企業販促・DX支援協会では、中小企業のAI・DX活用をサポートしています。Agent Skillsに関連して、次のような支援をご用意しています。
- 業務棚卸し支援:スキル化に向く業務の洗い出しと、手順の整理をお手伝いします。
- スキル設計支援:descriptionの設計やSKILL.mdの構成、社内展開のルールづくりを一緒に考えます。
- Claude導入支援:Claudeの導入と活用の定着を支援します。
当協会はClaudeの導入支援を行っていますが、Agent Skillsはオープン標準であり、特定のツールだけのものではありません。ご利用中のツールや社内の状況に合わせて、中立的な立場でご相談をお受けします。Claude活用の全体像は中小企業のためのClaude活用完全ガイド、連携の広がりはClaude Marketplaceとはで解説しています。支援内容の詳細は、お問い合わせの際にご案内します。
まとめ:まずは小さな一本から
Agent Skillsは、SKILL.mdを含むフォルダで、AIに業務のやり方を教えるオープン標準です。作り方の流れは、次の6ステップでした。
- スキル化する業務を選ぶ
- 手順を棚卸しする
- SKILL.mdを書く(name、description、本文)
- 実際の依頼でテストする
- 改善する
- 社内に展開する
押さえておきたいのは、descriptionに「何をするか」と「いつ使うか」を書くこと、SKILL.mdは500行以内に収めて長い資料はreferencesへ分けること、機密情報を書かないこと、第三者のスキルは出所と権限を確認すること、そして成果物は人が最終確認することです。
スキルの作成は、AIのためだけでなく、自社の業務を見える化し、ノウハウを会社の資産として残す機会にもなる可能性があります。各ツールの対応状況や料金は変わり得るため、導入前に各サービスの公式情報をご確認のうえ、まずは小さな一本から試してみてください。最新の動きはAgent Skills AAIF寄贈の速報でも追えます。


