「営業の案件管理をExcelでやっているが更新が追いつかない」「CRMツールは中小企業には過剰に感じる」。こうしたお悩みに有力な選択肢がNotionです。本記事では構築手順と料金、他ツールとの比較、「Notionでは無理が出る」境界線を解説します。
NotionでCRM(顧客関係管理)を作るとは
CRMとは何か
CRM(Customer Relationship Management/顧客関係管理)とは、顧客ごとの情報とやり取りの履歴を一元的に蓄積し、営業活動を可視化して受注確度を高める仕組みです。この情報が担当者の頭の中とメールボックスにしかない状態が属人化です。担当者が退職すれば顧客との関係も失われ、経営者は「今月いくら入りそうか」が分かりません。
なぜNotionがCRMに使えるのか
Notionは、メモ・ドキュメント・データベース・タスク管理を1つにまとめた情報管理ツールです。CRM専用ではありませんが3つの特性が構築に適しています。リレーション——データベース同士を関連付けられるため「この案件はA社のB様が担当」という関係を表現できます。複数のビュー——同じデータを担当者はカンバン、経営者はタイムラインで扱えます。案件と文書の同居——案件カードに議事録を書けます。
Notionが向く企業・向かない企業
向くのは、営業担当が1〜10名程度、案件数が月間数十件まで、営業プロセスが固まりきっておらず柔軟に変えたい企業です。営業が20名超、あるいはメール配信などマーケティング機能まで必要ならHubSpot、営業以外の社内業務もまとめたいならkintoneが適します。
Notion CRMの設計と運用手順
4つのデータベースに分ける
よくある失敗が、1つのデータベースにすべてを詰め込むことです。案件ごとに会社名を入力すると同じ会社が「〇〇株式会社」「〇〇(株)」と複数通りで登録され、取引履歴を追えなくなります。企業/担当者/案件/活動ログに分けてつなぎます。
| データベース | 1レコード= | 主なプロパティ |
|---|---|---|
| 企業 | 1社 | 会社名(正式名)、業種、従業員規模、流入経路 |
| 担当者 | 1人 | 氏名、部署、役職、メール、電話、キーマン度 |
| 案件 | 1つの商談 | 案件名、ステータス、確度、金額、受注予定日、次アクションと期日 |
| 活動ログ | 1回の接触 | 日付、種別(訪問/電話/メール)、内容、決定事項 |
案件は企業と担当者の両方に紐づけてください(担当者だけだと異動時に会社との関係が追えません)。ロールアップ(リレーション先の数値を集計する機能)で企業DBに案件金額の合計を置くと取引規模が分かります。
ステータス・確度・受注予定日のプロパティ設計
ステータスは自社の実プロセスに合わせ5〜6段階に。例:①リード→②初回商談→③提案・見積提出→④交渉・稟議中→⑤受注/⑥失注。細かすぎると更新が面倒になり誰も動かしません。
確度は数値ではなく「A=決裁者が同席し予算と時期が明示された」「B=担当者は前向きだが決裁者未接触」「C=検討時期が未定」と事実で定義します。受注予定日は未定でも仮置きします。金額は税抜の見込額を入れ、確度に応じた係数を掛ける数式(Formula)を作れば着地見込みが自動で出せます。
「次アクション」と「次アクション期日」は必須
当協会がDX支援の現場で最も多く指摘するのが、この2つの欠落です。ステータスと金額は入っているのに「次に誰が何をいつまでに」がない案件管理表が大半です。案件が止まる原因のほとんどは失注ではなく「ボールを持ったまま忘れていた」こと。期日超過を赤表示するビューを作るだけで放置案件は減ります。
ボード・カレンダー・タイムラインの使い分け
ボードビュー(カンバン)は案件をステータスごとの列に並べカードをドラッグして進める形式で、営業担当の主戦場です。表示プロパティを3つ程度に絞り、列ごとの件数と金額合計を出せば滞留状況が分かります。カレンダービューは「次アクション期日」基準なら今週のフォロー、「受注予定日」基準なら着地見込みの確認に。タイムラインビューは初回接触日を開始、受注予定日を終了にすると商談期間が横棒で見え、停滞案件が分かります。
週次営業会議での運用手順(Step 1〜6)
Step 1:前日夕方までに各自が案件を最新化。Step 2:期日超過の案件から見る(5分)。進めるか、寝かせるか、失注として閉じるかを決めます。Step 3:受注間近の案件を確認(10分)。「受注確定に足りないものは何か」だけを論点に。Step 4:新規案件と失注案件を共有(10分)。失注理由を蓄積すると負けパターンが見えます。Step 5:パイプライン合計を確認(5分)。提案段階の総額が月間目標の3倍あるかを目安に。Step 6:決定事項をその場で入力(5分)。
Notion AI による議事録要約と次アクション抽出
Notion AIは、Notion内に組み込まれた生成AI機能です。商談メモを「決定事項・懸念点・次アクション」に整理させる、長い会話ログから「誰が何をいつまでに」を抜き出させる、といった使い方が実務的です。活動ログDBにテンプレートを設定しておくと出力品質が安定します。ただし金額・納期は誤りが混入し得るため必ず人が確認してください。中小企業のDX・AI活用情報サイトでも実践例を紹介しています。
料金プランと他ツールとの比較
Notionの料金プラン
金額は2026年8月時点の目安であり、最新は公式サイトを確認してください。年払いのほうが割安になります。
| プラン | 月額(1ユーザー・目安) | 主な特徴 | 想定される使い方 |
|---|---|---|---|
| フリー | 0円 | 個人利用は無制限。ファイル5MB制限、履歴7日 | 1人で試す |
| プラス | 約1,200〜1,650円 | チーム利用可。ファイル無制限、履歴30日 | 営業1〜10名。中小企業の標準 |
| ビジネス | 約2,300〜3,000円 | SAMLシングルサインオン、プライベートチームスペース | 部門ごとに情報を分けたい企業 |
| エンタープライズ | 要問い合わせ | 監査ログ、高度な権限管理、SLA | 厳格な統制が必要な組織 |
Notion AI の扱いは要注意です。以前は全プラン共通の追加オプションでしたが、現在は有料プランに一定の利用枠が含まれる形へ変更されています。AI機能を前提にするなら契約前に公式サイトを確認してください。営業5名がプラスを年払いで使う場合、月額は6,000〜8,000円程度が目安です。
他ツールとの比較
| ツール | 機能面の特徴 | 価格の目安(1ユーザー月額) | 想定ユーザー |
|---|---|---|---|
| Notion | 柔軟な自作CRM。案件と文書が同居。レポートは限定的 | 0〜3,000円 | 営業1〜10名。柔軟に変えたい企業 |
| HubSpot | 本格CRM。メール自動送信、開封追跡、レポート、自動化を標準搭載 | 0円(無料版)〜数千円台 | マーケと営業を連動させたい企業 |
| kintone | 業務アプリを自作。国内商習慣への適合と稟議ワークフローが強み | 約1,500〜3,000円 | 社内業務もアプリ化したい企業 |
| Google スプレッドシート | 導入コストゼロ。リレーションと権限の細分化は苦手 | Google Workspace 契約に含まれる | 営業1〜3名。可視化の第一歩 |
活用事例:中小企業3社の取り組み
事例1:Web制作会社のお客様(従業員12名)— 提案中案件の放置がゼロに
課題:営業4名が個人のスプレッドシートで案件を管理し、経営者は月末まで見込みを把握できませんでした。提案書を出したまま2か月フォローしていない案件が常時5〜6件ありました。
打ち手と効果:4データベース構成でCRMを構築し、次アクション期日を必須項目に。期日超過案件を赤表示するビューから週次30分の会議を始める運用にしました。3か月後、期日超過案件は平均0.5件まで減少。提案から受注までが平均48日から31日に短縮し、四半期の受注件数が前年同期比で約1.3倍になりました。
事例2:業務用資材商社のお客様(従業員22名)— 属人化した顧客情報を共有資産に
課題:ベテラン営業3名が長年の顧客を抱え、経緯は本人の手帳とメールにしかありませんでした。1名の退職が決まり、引き継ぎ工数が読めなかったことが導入のきっかけです。
打ち手と効果:企業DBと活動ログDBを先に整備し、過去1年分の面談経緯を遡って入力。商談後15分以内にテンプレートで記録するルールを設け、Notion AIの要約で負担も軽減。引き継ぎ期間は3か月の想定から6週間に短縮し、主要顧客の離反はゼロでした。
事例3:士業事務所のお客様(従業員8名)— 紹介案件の追跡と受注率向上
課題:新規相談の多くが紹介経由でしたが紹介元が記録されておらず、どの経路が受注につながっているか分かりませんでした。相談を受けたまま見積提出に至らない例も散見されました。
打ち手と効果:企業DBに「流入経路」「紹介元」を追加し、ステータスを5段階に設計。半年で特定の紹介経路の受注率が6割超と判明し、働きかけを強化。相談から見積提出までが平均11日から4日に短縮し、受注率が12ポイント改善しました。
デメリット・注意点
同時編集での競合と上書き
同じレコードの同じプロパティを同時に触ると、後から確定した内容で上書きされます。案件ごとに「更新責任者」を1名決め、他はコメント機能で申し送りすれば競合は防げます。
権限管理の粒度に限界がある
権限はページ単位が基本で、「自分の担当案件だけ見える」という行単位の制御はできません。外部パートナーを招く場合は、見せるデータを別DBに分けます。
件数が増えると動作が重くなる
レコード数が数千件を超え、リレーションと数式が重なると読み込みが遅くなります。標準で開くビューにはフィルター(進行中のみ等)をかけ、終了案件は年度ごとにアーカイブ用DBへ移してください。
レポート機能とメール連携の限界
最大の弱点です。専用CRMが備える「月次の受注推移グラフ」「担当者別の成約率」「ステージ間の移行率」をNotion単体で自動生成することはできず、月次のCSVエクスポートで分析するのが現実的です。送信メールが自動で顧客履歴に残る機能や開封追跡もなく、活動ログは手入力になります。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:最初から作り込みすぎる
プロパティを30個以上作り凝ったダッシュボードを用意すると、本人以外は使いこなせず放置されます。対策:案件DBのプロパティは10個以内に絞ります。
失敗2:企業DBを作らず案件DBだけで始める
会社名をテキストで直接入力すると、半年後に表記ゆれで会社単位の集計ができなくなります。対策:最初から企業DBを分けます。
失敗3:更新のタイミングが決まっていない
「気づいたときに更新して」は、実質ルールがないのと同じです。対策:「商談が終わったら15分以内に活動ログを書く」と行動とセットで決めます。週次会議という強制力も不可欠です。
失敗4:経営者が見ていない
営業担当だけに入力を求め、経営者がNotionを開かない状態では運用は形骸化します。対策:経営者は週1回パイプラインを確認し、会議で具体的な案件名に言及してください。「見られている」という事実が最も強い定着要因です。
失敗5:失注案件を削除してしまう
削除すると、なぜ負けたのかという最も価値のあるデータが失われます。対策:ステータスを「失注」に変え、理由を埋めて残します。休眠顧客の掘り起こしにも使えます。
まとめ
Notionでの営業案件管理は、中小企業にとって費用対効果の高い選択肢です。
- 企業・担当者・案件・活動ログの4データベースに分け、リレーションでつなぐ
- プロパティは10個以内から。「次アクション」と「次アクション期日」は必須
- 確度は数値ではなく、観測可能な事実で定義する
- ボードは日々の営業、カレンダーは期日管理、タイムラインは停滞の発見に使う
- 週次会議を、期日超過案件のレビューから始める6ステップで固定化する
- レポート・メール連携・権限管理には限界がある
まず着手するなら、今週の商談3件分だけを入力してみてください。設計の良し悪しは3件で判断がつきます。


