「毎回同じ前置きをAIに入力している」「担当者によって回答の質がばらつく」「社内規程の問い合わせが総務に集中する」。生成AIを使い始めた中小企業から、当協会の支援現場で最も多く聞く悩みです。使う人ごとに指示の書き方が違えば成果物は安定せず、ベテランが手直しする時間は減りません。
この問題を解決するのが、Geminiの「Gem(ジェム)」です。自社のルールや文体、参照資料をあらかじめ登録しておけば、誰が使っても同じ品質で答える「社内専用AIアシスタント」を、プログラミングなしで作れます。本記事では、2026年9月時点の提供状況、料金、他ツールとの比較、作り方、当協会の支援現場での事例、失敗パターンまでを解説します。
Gemini Gemsとは
Gem(Gems)とは、Google の生成AI「Gemini」に、名前・役割・指示・参照資料を登録して保存できる「自分専用のカスタムAIアシスタント」のことです。毎回のチャットで長い指示文を書かなくても、保存したGemを選ぶだけで、決められた役割どおりに応答します。
Gemを構成する3つの要素
Google の公式ヘルプによると、Gemは次の3つで構成されます。
- 名前:「営業メール下書き係」「就業規則FAQ」など、用途が分かる名前を付けます。
- カスタム指示:役割・口調・出力形式・禁止事項などを文章で書きます。「Geminiを使用して指示を書き換える」機能を使うと、短い下書きから包括的な指示文に整えてもらえます。
- 知識(ソース):デバイスからのファイルアップロード、Google ドライブからの追加、NotebookLMノートブックの追加が可能です。Google ドライブから追加したファイルは常に最新版が参照されるため、規程やマニュアルを改訂すればGemの回答にも自動で反映されます。
2026年9月時点の提供状況(無料版・Google Workspace)
Gemini公式の料金ページ(2026年9月時点)では、無料プラン(0円)の機能一覧にも「Gem」が明記されており、個人のGoogle アカウントであれば無料でGemを作成・利用できます。有料の Google AI Plus/Pro/Ultra は、使用量上限や上位モデルへのアクセスが広がる位置づけです。
法人利用の場合は Google Workspace の各プランにGeminiアプリが含まれ、Business Starter は「基本的なアクセス」、Business Standard 以上は「より広いアクセス」です。公式ヘルプによると、ウェブアプリで作成したGemはモバイルアプリと Google Workspace のGeminiサイドパネル(Gmail・ドキュメント等の右側に出るパネル)にも表示されます。Gmailを開いたまま自社専用Gemを呼び出せるということです。
なお、Google ドライブからの追加には「アクティビティの保存」をオンにし、Google Workspace をGeminiアプリに接続する必要があります。音声対話のGemini LiveではGemを使えません(2026年9月時点)。
作ったGemはチームで共有できる
Gemは共有機能で同僚に配布できます。総務が作った「就業規則FAQ Gem」を全社員に配る、営業マネージャーの「見積送付メール Gem」を営業部で共有する、といった使い方が可能です。個人の工夫を会社の仕組みに変えられる点が、チャット利用との決定的な違いです。
料金プラン(2026年9月時点)
Gemそのものに追加料金はなく、契約しているGeminiのプランに含まれます。いずれも Google 公式サイトの2026年9月時点の表示額で、最新情報は公式サイトをご確認ください。
個人向け Google AI プラン(公式サイト表示額)
| プラン | 月額 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 無料 | 0円 | Gem作成・利用可。3.6 Flashモデル、3.1 Proは制限付き。Deep Research、Canvas、15GBストレージ |
| Google AI Plus | 725円 | 無料版の2倍の使用量上限。Gemini in Gmail等のアプリ内AI、400GBストレージ |
| Google AI Pro | 2,900円 | 無料版の4倍の使用量上限。100万トークンのコンテキスト、5TBストレージ |
| Google AI Ultra | 14,500円〜32,000円 | Proの5倍〜20倍の使用量上限。Deep Think等の先行機能、20TB〜ストレージ |
法人向け Google Workspace(1ユーザー月額・年間契約・税別)
| プラン | 月額 | Gemini・Gemに関わる主な特徴 |
|---|---|---|
| Business Starter | 800円 | Geminiアプリは「基本的なアクセス」。Gmail内のGemini AIアシスタント。30GB/ユーザー |
| Business Standard | 1,600円 | Geminiアプリは「より広いアクセス」。Gmail・ドキュメント・スプレッドシート・Meet等でGemini利用可。2TB/ユーザー |
| Business Plus | 2,500円 | Standardの全機能+Vault・高度なセキュリティ。5TB/ユーザー |
公式サイトでは年間契約のほうが月契約より16%お得と案内されています。Gemを社内の仕組みとして運用するなら、企業向けのデータ保護が効く Google Workspace が基本です。Gemini for Workspaceの機能全体はGemini for Workspaceの使い方・料金の記事で解説しています。
他ツールとの比較(ChatGPT GPTs・Claude Projects・Microsoft Copilot)
同種の機能は主要な生成AIサービスにもあります。判断軸は、①既存の業務基盤との相性、②社内資料の参照方法、③1人あたりのコストの3点です。
比較表
| 項目 | Gemini Gem | ChatGPT GPTs | Claude Projects | Microsoft Copilot エージェント |
|---|---|---|---|---|
| 作成に必要なプラン | 無料版から作成可 | 有料プラン(Plus $20/月〜、Business $25/ユーザー/月〜)。無料版は利用のみ | Pro $20/月、Team $25/席/月(月払い) | Microsoft 365 Copilot 4,497円/ユーザー/月(年払い・税抜)+Microsoft 365ライセンス |
| 社内資料の参照 | ファイル添付、Google ドライブ連携(最新版を自動反映)、NotebookLM | ファイル添付(アップロード時点の内容) | ファイル添付、外部サービスのコネクタ | SharePoint・OneDrive上の文書を参照 |
| 呼び出せる場所 | Geminiアプリ、モバイル、Gmail・ドキュメント等のサイドパネル | ChatGPTアプリ内 | Claudeアプリ内 | Teams・Word・Outlook等のMicrosoft 365アプリ内 |
| 共有 | リンク共有で配布可 | 組織内・リンク共有可 | Teamプランで組織内共有可 | 組織内で配布可(管理者設定が必要な場合あり) |
| 想定ユーザー | Google Workspace利用企業 | ChatGPTに慣れた社員が多い企業 | 長文の文書作成・分析を重視する企業 | Microsoft 365中心の企業 |
料金は2026年9月時点の各社公式サイトの表示額です。ChatGPTとClaudeは米ドル建てのため円換算額は為替で変動します。最新情報は各公式サイトをご確認ください。
中小企業がGemを選ぶべきケース
すでにGmailと Google ドライブで業務を回している会社なら、Gemが最も手間なく定着します。参照させたい規程やマニュアルが Google ドライブ上にあれば、そのまま知識として登録でき、改訂時の再アップロードも不要だからです。Microsoft 365 中心の会社であれば、Power AutomateやCopilotとの相性を先に検討するほうが自然です。
Gemの作り方(ステップ形式)
Google 公式ヘルプの手順に沿って5ステップで説明します。パソコンのブラウザから gemini.google.com にログインして進めてください。
Step 1:自動化したい「定型業務」を1つ決める
最初に決めるのは技術ではなく業務です。「毎回同じ形式で作っている文書」を書き出し、①入力が決まっている、②出力の型が決まっている、③判断基準を言葉にできる、の3条件を満たすものを1つ選びます。営業メールの下書き、議事録の整形、社内規程への問い合わせ対応が典型です。
Step 2:サイドバーの「Gem」から「Gemを作成」を開く
Geminiアプリ左上の「サイドバーを開く」アイコンから「Gem」を選び、「Gemを作成」を押します。名前を入力し、カスタム指示の欄に、役割(〇〇会社の営業アシスタント)、口調(です・ます調)、出力形式(件名・本文・署名の順)、禁止事項(値引きの約束をしない、未確認の納期を書かない)を書きます。書きかけで「Geminiを使用して指示を書き換える」を押すと、抜けた観点を補った指示文に整えてくれます。
Step 3:「知識」に社内資料を追加する
カスタム指示の下にある「知識」の「ファイルを追加」から、「ファイルをアップロード」または「ドライブから追加」を選び、会社概要、価格表、過去の良いメール例、就業規則などを登録します。ドライブから追加する場合は、事前に「アクティビティの保存」をオンにし、Google Workspace をGeminiに接続しておきます。回答に引用を出したくない場合は「知識の引用を無効にする」を選べます。
Step 4:右側のプレビューでテストし、指示を修正する
画面右側のテキストボックスに実際の依頼文を入力し、回答を確認します。「敬語が過剰」「金額の書き方が違う」といった違和感が出たら、左側のカスタム指示を直して再度試します。この往復を3〜5回行うと、実務で使える精度になります。
Step 5:保存し、共有して社内で運用する
「保存」を押すと「マイGem」に登録されます。共有して配布し、最初の2週間は「出力をどれだけ手直ししたか」を記録して、多い箇所をカスタム指示に追記します。Gemは後から編集できるため、育てながら運用するのが前提です。
活用事例(当協会の支援現場から)
当協会が支援した中小企業の実例を、業種・規模・効果に抽象化して3件ご紹介します。
事例1:営業メール下書きGem(機械部品卸・従業員25名規模)
営業担当5名のメール文面がばらつき、新人のメールを所長が毎回添削していました。商品カタログと「良いメール例10通」を知識に登録し、「件名・宛名・要件・次のアクション・署名」の型を指示したGemを作成。新人がGemで下書きを作り所長が確認する運用に変えたところ、添削時間は1日約60分から約15分に減り、返信までのリードタイムも半日以上短縮されました。
事例2:社内規程FAQ Gem(介護事業・従業員80名規模)
有給の取り方、慶弔見舞金、育児短時間勤務など、規程に関する問い合わせが月50件以上総務に集中していました。就業規則・給与規程・申請手順を Google ドライブから知識に登録し、「該当条文を引用して答え、判断が必要な場合は総務へ案内する」よう指示したGemを全社員に共有。問い合わせは月20件前後に減り、規程改訂時もドライブ上のファイルを差し替えるだけで最新の回答に切り替わりました。
事例3:議事録整形Gem(建設業・従業員40名規模)
現場会議のメモをそのままチャットに貼っており、決定事項と宿題が混在して後から探せない状態でした。「決定事項・未決事項・担当者と期限付きのTODO・次回議題」の4区分に整形し、人名は社員名簿(知識に登録)と照合して統一するGemを作成。清書時間は1件あたり約40分から約10分になり、TODOの抜け漏れによる手戻りも減りました。議事録の自動化はClaudeで議事録を自動化する記事でも詳しく解説しています。
デメリット・注意点
回答は必ず人が確認する前提で運用する
Google の利用規約でも、生成されたコンテンツを使用する前に自身で検証することが求められています。知識ファイルを登録しても、資料にない内容を推測で補うことはあり得ます。金額・納期・法令に関わる出力は、担当者の確認を必須にしてください。
個人アカウントと Google Workspace でデータの扱いが異なる
個人のGoogle アカウントと仕事用アカウントでは適用される規約が異なります。顧客情報や社内規程を登録する業務用途では、企業向けのデータ保護が適用される Google Workspace のアカウントで作成してください。私用アカウントのGemに社内文書を入れる運用は避けるべきです。詳しくはAIセキュリティの記事をご覧ください。
ドライブ連携には設定と権限の整理が必要
Gemを共有しても、知識ファイルの閲覧権限が共有相手にない場合は参照できません。共有ドライブの権限設計を先に整えておくことが重要です。
使用量上限とプラン差を理解しておく
Geminiアプリには、プロンプトの複雑さや機能に応じた使用量上限があり、無料版は上位モデルへのアクセスが制限されます。Google Workspace でも Business Starter は「基本的なアクセス」にとどまるため、全社で日常的に使うなら Business Standard 以上を前提に費用対効果を試算してください。仕様は変更されるため、導入前に公式ヘルプで最新状況を確認することも欠かせません。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:指示が抽象的で、結局毎回手直しする
「丁寧なメールを書いて」だけでは、通常のチャット利用と変わりません。対策は「出力の型」の具体化です。良い例を3通以上知識に登録し、指示文には「件名は30文字以内」「末尾に次回アクションを1行」など、測れる基準を書きます。
失敗2:1つのGemに何でもやらせようとする
営業メールも議事録も規程FAQも1つのGemに詰め込むと、指示が衝突して精度が落ちます。対策は「1業務1Gem」です。用途ごとに分けたほうが指示が短く済み、使う側も迷いません。
失敗3:作った人しか使わず、属人化する
優秀な社員が自分用にGemを作って終わり、というケースが最も多い失敗です。対策は、Gemの共有と管理者の明文化です。当協会の支援現場では、Gemの一覧表(名前・用途・管理者・知識ファイルの場所・最終更新日)をスプレッドシートで管理する運用を推奨しています。全社導入の進め方はAI導入ステップ完全ガイドを参照してください。
失敗4:知識ファイルが古いまま放置される
デバイスからアップロードしたファイルは、アップロード時点の内容で固定されます。価格表や規程が改訂されたのにGemが古い情報で答え続ける事故が起こります。改訂されうる資料は Google ドライブから追加し、最新版が自動反映される状態にしてください。
まとめ
Gemini Gemsは、Google Workspace を使う中小企業が追加費用なしで始められる「社内専用AIアシスタント」の作成手段です。要点を整理します。
- Gemは名前・カスタム指示・知識の3要素で構成され、無料版からでも作成できます。
- 法人利用は Google Workspace(Starter 800円〜、年間契約・税別)で、Gmail等のサイドパネルからもGemを呼び出せます。
- ChatGPT GPTs・Claude Projects・Microsoft Copilotとの違いは、Google ドライブとの連携(最新版の自動反映)とコストの低さです。
- 「1業務1Gem」「知識はドライブから追加」「Gem一覧表で管理」が定着のポイントです。
最初の一歩は、社内で「毎回同じ前置きをAIに書いている人」を探し、その前置きをそのままGemのカスタム指示にすることです。生成AIの活用全般はdx-ai.seed.or.jpで継続的に発信しています。


