令和8年版 情報通信白書を中小企業向けに解説|生成AI利用86.4%でも27.0%が「組織的な取組はない」

AI活用

「生成AIを使ってはいるが、正直、業務が変わった実感はない」——中小企業の経営者やDX担当の方から、最近もっとも多く伺うご相談です。

2026年7月24日、総務省が「令和8年版情報通信白書」を公表しました。今回で54回目となるこの白書の特集テーマは「AIの進展がもたらす多面的影響〜人間とAIが健全に協働するデジタル社会の実現に向けて〜」です。背景には、2025年に制定・施行されたAI法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)があります。

本記事の結論は1点です。日本企業の生成AI導入率は86.4%まで来ており、もはや「導入で遅れている」という話ではありません。問題は、27.0%の企業が業務変革に何も着手できておらず、用途も議事録・メール作成に偏っていることです。差がついているのは技術力ではなく、「学ぶ環境」と「社内データの整備」でした。

※本記事でいう「生成AI」とは、文章・画像・音声などを自動でつくり出すAIのことです。ChatGPT、Claude、Geminiなどが代表例です。

この白書の調査は、日米独中4か国を対象に実施されています

特集のアンケート調査は2026年1〜2月にインターネットで実施されました。対象は日本・米国・ドイツ・中国の4か国、個人向けが有効回答3,108件(うち日本1,236件)、企業向けが1,442社(うち日本515社)です。企業向けの対象は「従業員10名以上で、2025年までにデジタル化の取組を開始した企業に勤める管理職以上」に限られます。つまり「デジタル化にすでに着手した企業」の中での比較である点は前提として押さえておきます。

個人の生成AI利用経験率は、2年で9.1%から58.8%まで上昇しました

日本の生成AI利用経験率(これまでに使ったことがある人の割合)は、2023年度調査9.1%、2024年度調査26.7%、2025年度調査58.8%と、2年でおよそ6.5倍になりました。

日本の生成AI利用経験率の推移(2023年度9.1%、2024年度26.7%、2025年度58.8%)を示す棒グラフ
図1:日本の生成AI利用経験率の3年推移。出典:「令和8年版情報通信白書」(総務省)より作成 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/summary/summary01.pdf

58.8%という数字には、読み方の注意点があります

この58.8%をそのまま前年と比べるのは正確ではありません。2023年度・2024年度の調査は20歳以上が対象でしたが、2025年度調査から新たに15〜19歳が加わっています。白書は、20歳以上に限った利用経験率は52.2%と注記しています。4か国比較では日本58.8%、米国75.6%、ドイツ75.6%、中国93.6%で、個人利用では日本が最も低い水準です。

年齢が上がるほど利用率は下がり、60代は33.5%にとどまります

年齢階層別に見ると傾向は鮮明です。15〜19歳が91.7%で最も高く、20代78.2%、30代56.3%、40代49.0%、50代44.2%、60代33.5%と下がっていきます。

日本の年齢別 生成AI利用経験率。15〜19歳91.7%、20代78.2%、30代56.3%、40代49.0%、50代44.2%、60代33.5%
図2:生成AIサービスの利用経験(日本・年齢別)。出典:「令和8年版情報通信白書」(総務省)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/summary/summary01.pdf licensed under CC BY 4.0

意思決定層と現場の若手とで、AIへの肌感覚が相当に違うということです。社内の議論がかみ合わない原因が、この体験量の差にあることは少なくありません。

日本企業の86.4%が生成AIを使っており、導入率で遅れている状況ではありません

ここからが本題です。「自社の何らかの業務で生成AIを利用している」と回答した割合は日本で86.4%。前年調査の55.2%から大幅に上昇しました。

企業の生成AI利用率の4か国比較。日本86.4%、米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%
図3:何らかの業務で生成AIを利用している企業の割合(4か国比較)。出典:「令和8年版情報通信白書」(総務省)より作成 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/summary/summary01.pdf

米国90.9%、ドイツ91.6%、中国98.1%と比べても差は数ポイントです。活用方針でも、「積極的に活用する方針」と「活用する領域を限定して利用する方針」の合計は日本で68.9%となり、前年の49.7%から大きく伸びました。「日本企業はAI導入で周回遅れ」という語り方は、少なくとも導入率という指標では実態と合っていません。

本当の課題は、27.0%の企業が業務変革に何も着手できていないことです

差が出たのは次の設問です。生成AIによる業務変革に組織としてどう取り組んでいるかを尋ねたところ、日本では「組織的な取組はない」が27.0%にのぼりました。

生成AIによる業務変革に関する組織的な取組状況の4か国比較。日本は「組織的な取り組みはない」が27.0%で最も高い
図4:生成AIによる業務変革に関する組織的な取組状況(国別)。出典:「令和8年版情報通信白書」(総務省)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/summary/summary01.pdf licensed under CC BY 4.0

同じ回答は米国1.4%、ドイツ4.9%、中国2.6%です。日本だけが突出しています。日本の内訳は、全社横断で取り組んでいる21.5%、各部署で業務の最適化を行っている32.4%、個人の生産性向上に組織的に取り組んでいる11.7%、組織的な取組はない27.0%、わからない7.4%でした。

つまりツールは入った、社員も使っている、しかし「会社としてどう業務を変えるか」は誰も決めていないという状態です。成果が個人の中で止まり、組織の資産になっていないと読み取れます。

用途は「議事録・メール作成補助」に偏っており、本業への広がりが弱いです

用途の偏りも同じ問題の別の側面です。日本企業が「生成AIの活用効果を感じる」と回答した業務は、議事録・メール作成補助が72.3%で突出しています。

日本企業が生成AIの活用効果を感じる業務。議事録・メール作成補助72.3%、社内ヘルプデスク42.7%、製造・生産39.8%、研究・商品開発39.1%など
図5:生成AIの活用効果を感じる割合(日本・業務類型別)。出典:「令和8年版情報通信白書」(総務省)https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/summary/summary01.pdf licensed under CC BY 4.0

2番手以下は社内ヘルプデスク42.7%、製造・生産39.8%、研究・商品開発39.1%、営業・販売37.5%、マーケティング・広報36.6%と、いずれも4割前後で、1位との差は約30ポイントです。そこで止まる限り、削減できるのは「作業時間」であって、本業の競争力には届きません。米国では研究・商品開発で効果を感じる割合が47.5%と最も高くなっています。

差がついているのは技術力ではなく、「学ぶ環境」と「社内データの整備」です

では、なぜ業務変革まで進めないのか。白書は「環境整備」の状況も尋ねており、日本と中国の差がはっきり出ました。

生成AIによる業務変革に向けた環境整備の日中比較。学ぶ環境は日本39.9%に対し中国71.7%、社内データの学習・データベース構築は日本24.5%に対し中国73.0%
図6:業務変革に向けた環境整備の状況(日本・中国の比較)。出典:「令和8年版情報通信白書」(総務省)より作成 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/summary/summary01.pdf
  • スキルやノウハウを学ぶ環境がある:日本39.9%/中国71.7%(差31.8ポイント)
  • 社内データを学習させたり、生成AIが参照可能なデータベースを構築したりしている:日本24.5%/中国73.0%(差48.5ポイント)
  • 分析・活用可能な社内データの整備:日本26.1%/中国44.0% / 予算や人員の確保:日本37.4%/中国50.2%

この2つが揃わないと、AIは自社のことを何も知らないまま使われます。自社の見積ルールや過去の失敗事例を参照できないAIは、一般論しか返せません。なお「社内データを参照できる状態にする」とは大がかりな開発ではなく、過去の見積書・議事録・マニュアルをAIが読める形(PDFやテキスト)で1か所に集める整理から始まります。

中小企業は何から手を付けるべきかを、白書の事例から整理します

年間2,247時間を削減した中小企業グループの進め方

白書には、中小企業の先進事例として「アイニコグループ」(不動産・介護等)へのヒアリング結果が紹介されています。経営者が「AI前提の働き方に変革しなければ会社の将来はない」という認識を持ち、集中プロジェクトを立ち上げました。専門企業の伴走支援を受けながら、各事業部門の課題認識を起点に「AIで解決したい課題と目標」を設定し、定期的な進捗確認のもとで1年間かけて検討したとされています。成果として、介護事業部門での送迎ルート最適化システムの作成、不動産事業部門での問合せ対応の自動化などが挙げられ、全10事業部の合計で年間2,247時間分の業務時間削減につながったとの報告が紹介されています。

重要なのは白書の付記です。AI導入以前から業務フローやチェックシートの整備等に取り組む習慣が根付いており、それがAIツール活用においても有効だった——AI以前の「仕事の整理」がそのまま効いた、ということです。

明日から着手できる4つのステップ

  1. 経営者が「どの業務を変えるか」を1つ決めて、社内に明言する。ここを飛ばすと個人利用で止まります。全社改革である必要はありません。
  2. 現場の課題から始める。「AIで何かできないか」ではなく「毎月いちばん時間を取られている作業は何か」から入ります。
  3. 社内データを、AIが読める形に整理する。日本で24.5%しか進んでいない項目です。対象業務の書類(マニュアル・過去の見積・FAQ)を1か所に集めることから始めます。
  4. 学ぶ場を業務時間内につくる。日本39.9%に対し中国71.7%の項目です。月1回30分でも、自社業務を題材に試す時間が個人の工夫を組織の型に変えます。

AIは「コスト」ではなく「無形資産」として捉える

白書に掲載された国立情報学研究所の佐藤一郎教授のコメントも示唆に富みます。経営者はAIをコストではなく資産として位置づけ、ノウハウや知見を資産化するための手段としてAIを捉えるべきだという趣旨です。大企業の事例としては中外製薬の段階的な戦略と「ヒューマン・イン・ザ・ループ」のAIガバナンスが紹介されており、段階を踏む・人が最終確認するという原則は中小企業にも当てはまります。

参考:情報通信産業とAI市場の規模も押さえておきましょう

  • 2024年の情報通信産業の名目GDPは71.7兆円で、全産業の名目GDPの11.5%を占めます。
  • 2024年の民間企業による情報化投資は25.7兆円(前年比1.9%増、2020年価格)。うちソフトウェア投資が20.2兆円で約78%です。日米比較では米国が堅調に増加する一方、日本は横ばい傾向が続いています。
  • 世界の生成AI市場は、2025年の669億ドル(AI市場全体の27.4%)から2031年には4,421億ドル(同44.0%)まで拡大するとの予測が示されています。

なお総務省は、2026年8月中を目処にHTML版(Excelデータを含む)・EPUB版・CSVデータを公開する予定としています。

まとめ|導入率ではなく「変革の土台」で差がつきます

令和8年版情報通信白書が示したのは、日本企業の86.4%が生成AIを使いながら、27.0%が業務変革に組織として着手できていないという姿でした。効果を感じる業務は議事録・メール作成補助72.3%に偏り、環境整備では「学ぶ環境」(日本39.9%/中国71.7%)と「社内データの学習・データベース構築」(日本24.5%/中国73.0%)の差が際立ちます。

ツールを導入するフェーズは、すでに終わりつつあります。次に問われるのは、経営者が変える業務を決め、社内の情報を整理し、学ぶ時間をつくれるかどうかです。自社は何から手を付けるべきか——見極めに迷われている場合は、一度ご相談ください。

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【出典・二次利用について】本記事の図表および数値は、総務省「令和8年版情報通信白書」(概要)に基づいています(白書PDF版報道資料)。白書からの転載図表は「クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 国際(CC BY 4.0)」に基づき出典を表示して掲載しています。当協会作成の図は、同白書のデータをもとに作成したものです。なお、白書の「自由な二次利用の対象外となる図表リスト」に掲載された図表(世界のAI市場規模・世界の生成AI市場規模の図表等)は転載しておらず、数値の引用のみとしています。

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