AI駆動開発とは、要件定義から設計・実装・テストまでの開発工程にAIを組み込み、AIに任せる作業と人が判断する作業を分担しながら進める開発手法のことです。
株式会社deeptier(神奈川県横浜市)は2026年9月15日、大手SIer(社名非公表)と共同で、中〜大規模(50人月超)の受託開発におけるAI駆動開発の手法・プロセスを検証したと発表しました。検証は、大手SIerが受託予定の公共領域の業務システムを題材にした事前検証で、実施期間は2025年10月〜2026年3月。同社は、品質担保を3層構造で設計することにより、従来の中〜大規模受託開発と同水準の品質レベルを満たせることを確認したとしています(2026年9月時点)。
一次情報はdeeptierの公式リリース原文、および同社の補足資料PDFで公開されています。
何が発表されたのか|deeptierと大手SIerがAI駆動開発の何を検証したのか
これまでAI活用は、自社プロダクトや小規模開発が中心でした。公共案件や基幹システムのような中〜大規模の受託開発では、試験導入や一部工程にとどまる例が多いと同社は指摘しています。発注者との合意形成や成果物の定義、承認手続きなど条件が多く、従来と同水準の品質を維持できるかが最大の壁になるためです。
今回の検証では、要件定義から内部結合テストまでの各工程について、AI・実装者・上位レビュー担当の役割分担、承認フロー、成果物の定義を整理し、AI駆動開発を前提としたプロジェクト管理ルールとして整備したとしています。設計ドキュメント・コード・規約はGitHub上で一元管理し、AIエージェントの常時監視対象とすることで、ドキュメントと実装の乖離を防ぎます。特定の担当者や環境に依存しない再現可能なレベルまで引き上げたとしています。
工数面では、2025年10月〜2026年3月に実施した本検証において、実装・単体テスト工程で最大90%の削減(従来1画面あたり1〜2週間かかっていたものが約0.5〜1日)、設計書作成工程で最大30%、内部結合テスト工程で最大70%の削減が確認されたとしています。いずれも「最大」値で、同社はプロジェクト規模が大きいほど効果が高まる傾向にあるとしています。裏を返せば、規模が小さいほど削減幅は限定的になるということです。「AIを入れれば工数が9割減る」という話ではありません。
AI駆動開発とは|「AIに書かせる」ではなく「品質をどう担保するか」の設計
今回の発表で最も重要なのは削減率ではなく、品質担保の考え方です。同社は品質担保を次の3層で設計したとしています。AIが生成した成果物を、そのまま納品物とはしていません。
①人による合意・承認
各工程の入口と出口に、人が内容を確認して合意・承認する手続きを置く層です。何をもって「この工程は完了した」とするかを人が決める部分は残されています。AIに任せきる話として読むと、この発表の要点を取り違えます。
②AIによる自動検証の反復
生成された成果物をAIが繰り返し検証する層です。人の目視チェックを増やすのではなく、機械的に何度も回せる検証をAI側に寄せる役割分担です。
③工程を横断した統合検証
要件・設計・実装・テストを横断して整合性を検証する層です。設計ドキュメントと実装の食い違いは、後工程ほど修正費用が膨らみます。ここをAIエージェントの常時監視対象に置いた点が特徴です。
同社はこの考え方を「Human-AI Hybrid Development Method」と呼び、AIによる完全自動化を志向せず、AIに任せる領域と人間が判断・承認すべき領域を明確に切り分けて組み合わせを最適化する考え方だと自社サイトで解説しています。
中小企業への影響|受託開発でなくても効く「工程をまたいで資産を持たせる」考え方
前提を明示します。今回の題材は50人月超・公共領域・大手SIerの受託開発で、中小企業の業務にそのまま当てはまる話ではありません。持ち帰れるのは「規模」ではなく、AIに任せる範囲と人が承認する範囲を工程ごとに決めておくという設計思想のほうです。
コスト面では、削減が生じたのが実装・単体テストという「同じ作業を繰り返す工程」だった点が示唆的です。判断を伴わない反復作業ほどAIに寄せやすい、と読めます。業務面では、ドキュメントと実態の乖離を監視対象に置いた点が参考になります。マニュアルと現場のやり方がずれる問題は規模を問わず起こります。人材面では、AIを使う担当者とは別に「承認する人」を工程に置く体制設計が要点です。競合面では同様の動きが金融系でも出ており、ソニー銀行と富士通による勘定系システム開発への生成AI適用も、工程を横断して考える流れとして読むことができます。
今すぐできる一歩|無料でできる小さな棚卸し
費用をかけずに始められるのは次の3つです。
- 自社の業務を1つ選び、工程を3〜5個に分けて紙に書き出す
- 各工程を「AIに任せてよい」「人が必ず承認する」のどちらかに仕分ける
- 承認する工程について、誰が・何を見て・何をもってOKとするかを1行で決める
これだけで、ツール導入の前に決めるべきことが見えてきます。ここが決まらないままツールだけを入れると、成果物の品質を誰も保証できない状態になります。
当協会の視点
当協会では、AI・DX導入を「ツールを入れること」ではなく「業務の工程を分解し、任せる範囲と承認する範囲を決めること」と捉えています。Google Workspace の導入設計、生成AIの業務適用設計、社内ルールづくりを中小企業の規模に合わせて支援しています。どの工程から着手すべきかの整理からご相談いただけます。
まとめ
- deeptierは大手SIer(社名非公表)と、50人月超の受託開発におけるAI駆動開発の手法を検証したと発表(2026年9月15日)
- 品質担保は「人による合意・承認」「AIによる自動検証の反復」「工程を横断した統合検証」の3層構造で、AIの生成物はそのまま納品物にしない
- 工数削減は同検証における最大値で、実装・単体テスト工程で最大90%。規模が大きいほど効果が高まる傾向とされ、小規模では限定的
- 中小企業が持ち帰るべきは削減率ではなく、工程ごとに「AIに任せる範囲」と「人が承認する範囲」を決めておく設計思想
なお、AIが生成した成果物を工程横断でどう検証し、誰がどこで承認するかという論点は、常緑ガイド「AI駆動開発の品質担保とは|中小企業のための検証・承認ルール」で整理しています。


