「データは取っているのに、使えていない」「DXの方針が社内にない」。製造業の経営者から、当協会の支援現場でよく伺う言葉です。この実感を裏づける公的データが、2026年5月に公表された「2026年版ものづくり白書」です。
この記事では、ものづくり白書2026に掲載されたDX関連の調査結果のうち、中小製造業に関わる数値を整理し、「このデータが示す課題」と「中小企業が取るべき対策」までを解説します。数値は、白書の調査報告書の内容を紹介した報道(MONOist、2026年6月)をもとに整理しています。正確な数値・調査条件は、必ず原典でご確認ください。
ものづくり白書とは|経産省・厚労省・文科省が毎年まとめる製造業の年次報告
白書の位置づけと2026年版の概要
ものづくり白書(正式名称:製造基盤白書)は、ものづくり基盤技術振興基本法に基づき、経済産業省・厚生労働省・文部科学省が共同で毎年まとめる年次報告書です。2026年版(第26版)は2026年5月29日に公表されました。経済産業省のサイトでは概要版PDFも公開されています。
DX関連データの出典
本記事で紹介するDX関連の数値は、白書に引用された三菱UFJリサーチ&コンサルティング「令和7年度産業関係調査等事業(我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査)報告書」(2026年)に基づくものです。調査はスマートマニュファクチャリング構築ガイドライン(第2版・NEDO)の枠組みで整理されています。
白書が示すDXの実態|「データは取るが、使えていない」
データ取得66.0%、活用51.4%、成果あり43.9%
ものづくりのバリューチェーン全体でデータを取得している企業は66.0%、そのデータを活用している企業は51.4%、活用して成果を実感している企業は43.9%でした。取得から成果まで進むにつれ、約22ポイント減っています。
| 段階 | 割合 | 取得との差 |
|---|---|---|
| データを取得している | 66.0% | ― |
| データを活用している | 51.4% | -14.6pt |
| 活用して成果が出ている | 43.9% | -22.1pt |
出典:2026年版ものづくり白書(経済産業省・厚生労働省・文部科学省)に引用された、三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査(令和7年度)。
データの連携は企業内でも約3割、企業間では1〜2割
報道によれば、データ連携の水準は、サプライチェーン内で約3割、サプライチェーンをまたぐ連携は1〜2割程度にとどまっています。生産計画・調達・在庫管理といった領域は活用が進む一方、データがつながっていないことが成果の壁になっています。
ベテランの知識の見える化は最も進まない領域
知識・ノウハウの見える化が進まない理由として、「ベテランの暗黙知を形式知にするのが難しい」が68.6%、「どう形式知にすればよいか分からない、またはツールが使いこなせない」が28.6%、「時間や経営資源が足りない」が28.1%でした。人手不足の中で、AIによる負担軽減が期待される領域でもあります。
中小企業は「デジタル戦略がない」が過半数|白書の数値から読む課題
デジタル技術の活用戦略がある企業の割合(規模別)
| 企業規模 | 戦略がある | 策定中 | 合計 | 策定の予定もない |
|---|---|---|---|---|
| 大企業 | 35.7% | 19.8% | 55.5% | ― |
| 中小企業 | 7.2% | 11.0% | 18.2% | 55.0% |
中小企業の過半数(55.0%)は、デジタル活用の戦略も策定予定もない状況です。大企業との差は、ツールの有無というより「方針を決めているか」にあります。
経営課題の1位は人手不足、デジタルで解決したい意向も最大
経営課題として「労働力の減少」を挙げた製造業は69.8%で、うち40.7%がデジタル技術での解決を望んでいます(最も高い比率)。一方、サプライチェーンのコスト上昇、市場競争の変化、脱炭素対応は課題として挙げられても、デジタルで解決したいとする割合は低く、1〜2割程度にとどまりました。
推進体制は大企業と中小企業で違う
報道によれば、DXの推進体制は、大企業ではIT部門が主導し、中小企業では社長が主導する傾向が示されています。IT部門だけで進めてもDXは成功しにくい、という示唆も報じられていますが、詳細は白書本文でご確認ください。
このデータが示す3つの課題
白書の数値を中小製造業の視点で読むと、課題は3つに整理できます。第一に、「戦略の不在」です。デジタル活用の方針がなければ、ツールの選定も投資の判断も場当たり的になります。第二に、「データの分断」です。取得はしていても、部門や工程をまたいでつながっていなければ、成果に結びつきません。第三に、「暗黙知の継承」です。人手不足が続く中、ベテランの判断や段取りをどう残すかは、DXの中でも優先度の高いテーマです。
当協会の支援現場でも、「機械の稼働データは取れているが、誰も見ていない」「見積の根拠がベテランの頭の中にある」といった相談を、製造業の経営者から繰り返し伺います。白書の数字は、個社の悩みが業界全体の構造的な課題であることを示しています。
中小製造業が取るべき対策(3ステップ)
- 課題を3つに絞る:人手不足、品質、納期のうち、デジタルで解決したいものを経営者が決めます。
- データの「型」をそろえる:日報・検査記録・在庫などの入力項目を統一し、後から集計できる形にします。
- 見る場を先に作る:週次会議などで、1つの数字を見て判断する習慣をつくります。
活用事例|データを「成果」につなげた中小製造業の3つの取り組み
以下は、当協会の支援現場で見られたパターンを、個社が特定されないよう匿名化・再構成したものです。効果は目安です。
事例1:金属加工業(従業員30名規模)――生産実績を1つのシートに統一
機械ごと・担当者ごとにバラバラだった日報を、スプレッドシートの共通フォーマットに統一しました。データ取得の「型」をそろえたことで、納期遅れの原因分析ができるようになり、段取り替えの見直しにつながりました。
事例2:食品製造業(従業員50名規模)――ベテランの判断基準をAIで文章化
ベテラン社員へのヒアリングを録音して文字起こしし、生成AIで「判断の基準」と「例外ルール」に整理しました。マニュアルの作成時間が大幅に減り、新人教育に使えるようになりました。白書が指摘する「暗黙知の見える化」の実践例です。
事例3:機械部品製造業(従業員20名規模)――社長が週1回15分のDX定例を主導
IT担当者がいない会社で、社長自らが週1回15分、課題と改善の進捗を確認する場を設けました。「戦略がない」状態から、まず「今期に解決する課題を3つ決める」ことで、投資判断が早くなりました。
デメリット・注意点|白書のデータを読むときの4つの留意点
1. 調査対象に偏りがある可能性
調査の回答企業は、DXに関心のある企業に偏る可能性があります。自社の業種・規模と回答企業の属性が近いかを確認してください。
2. 平均値は自社の「正解」ではない
データ活用率が5割だから自社も5割を目指す、という発想は危険です。自社の経営課題に対して、データがどう役立つかから考えましょう。
3. 報道ベースの数値は原典確認が必須
本記事は報道・概要資料をもとにしています。社内資料や補助金の事業計画書に引用する場合は、白書の原本・調査報告書で数値と表現を確認し、出典を明記してください。
4. 製造業以外には直接当てはまらない
本白書は製造業が対象です。小売・サービス業などは、中小企業白書など別の統計も併せて参照してください。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:データを取る仕組みだけ作って、見る場がない
対策:「誰が・いつ・何を見て・何を決めるか」を先に決めます。週次会議の議題に数字を1つ入れるだけでも効果があります。
失敗2:ツール導入が目的化する
対策:白書でも、解決したい課題の1位は人手不足です。人手不足のどの業務を減らすのかを先に特定しましょう。
失敗3:IT担当者に丸投げする
対策:中小企業では社長の関与が推進力になります。経営課題と結びつけて、社長自身が優先順位を決めてください。
失敗4:現場のデータ入力の負担が増える
対策:入力項目を絞り、音声入力やスマートフォンの活用など、現場の手間が増えない方法から始めます。
白書の原典の探し方
経済産業省のウェブサイトでは、ものづくり白書の概要版PDF(https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2026/pdf/gaiyo.pdf)や本文が公開されています。調査報告書(令和7年度産業関係調査等事業)と併せて確認すると、設問や回答の母数まで把握できます。社内の勉強会や取引先への説明に使う場合は、調査名・発行機関・公表年を必ず添えてください。
まとめ|白書の数値が示す「戦略」と「つなぐ」の2つの課題
ものづくり白書2026は、データ取得(66.0%)から成果(43.9%)までに大きな落差があること、中小企業の55.0%にデジタル戦略がないことを示しました。対策は、(1)解決する課題を絞り、(2)社長が優先順位を決め、(3)データを使う場を先に作ることです。まずは自社の課題を整理するところから始めてみてください。
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