「FAXで届く注文書を、毎日手で入力している」「月末に届く請求書の入力だけで、経理担当の半日が消える」。当協会のDX支援で、最も費用対効果が出やすい自動化の一つが、紙やPDFの帳票を読み取ってデータにするAI-OCRです。一方で、製品ごとに料金体系(月額固定か、1枚ごとの従量か)や得意な帳票が大きく違い、「安いと思って入れたら、1枚あたりのコストが想定より高かった」という相談も少なくありません。
本記事では、中小企業が検討しやすい主要なAI-OCRツールの料金と特徴を整理し、選び方、導入ステップ、注意点を解説します。料金は2026年7月時点の公開情報(比較記事の調査に基づく)の目安です。料金・機能は変更されるため、最新情報は必ず各社の公式サイトでご確認ください。
AI-OCRとは
OCRとAI-OCRの違い
OCR(光学文字認識)は、紙やPDFの文字をデータに変換する技術です。従来のOCRは、決まったレイアウトの帳票しか読めず、手書きや崩れた文字に弱いという制約がありました。AI-OCRは、AIの学習によって、手書き文字やレイアウトの異なる帳票でも、項目(日付、金額、取引先名など)を判別して読み取れる点が特徴です。
AI-OCRで自動化できる主な業務
AI-OCRが効果を出しやすい業務は、次のとおりです。
- 受取請求書の入力(取引先名、請求金額、支払期日、振込先)
- FAXや紙の注文書の受注入力
- 納品書・検収書の照合
- 申込書・アンケートなどの手書き書類のデータ化
読み取ったデータは、会計ソフトや基幹システムに連携し、手入力をなくすことが目的です。
専用AI-OCRと生成AIによる読み取りの違い
最近は、ChatGPT、Claude、Geminiなどの生成AIに、請求書の画像やPDFを渡して項目を抜き出す使い方も広がっています。違いを整理すると次のとおりです。
| 観点 | 専用AI-OCR | 生成AI(ChatGPT・Claude・Geminiなど) |
|---|---|---|
| 精度の安定性 | 帳票ごとの学習や、人の確認工程で安定させやすい | 指示の出し方や帳票によりばらつくことがある |
| 大量処理 | 大量・定常処理を前提に設計 | 少量・単発の処理に向く |
| 会計・基幹との連携 | 連携機能が用意されている場合が多い | 連携は自分で組み立てる必要がある |
| 費用 | 月額+従量が一般的 | 利用料は低いが、運用の手間がかかる |
| 向いている用途 | 毎月決まった量の帳票処理 | 月数十件未満、帳票の種類が不定 |
月に数十枚以下で、帳票の形式がバラバラな場合は、生成AIで試すのも一つの方法です。毎月一定量があり、精度と連携を重視する場合は、専用AI-OCRが適しています。ただし、生成AIに帳票を渡す場合は、取引先情報の取り扱いについて、社内ルールの確認が必要です。
料金プラン
主要ツールの料金体系を整理します(2026年7月時点の調査に基づく目安。税抜・税込は製品により異なります)。
| ツール | 初期費用 | 料金の目安 | 課金の仕組み | 特徴 | 想定ユーザー |
|---|---|---|---|---|---|
| DX Suite(AI inside) | Liteは0円 | Lite 月額40,000円〜、Standard 月額100,000円〜、Pro 月額200,000円〜(税抜) | 1枚あたり数円〜数十円の従量が加わる | 手書き・FAXに対応、幅広い帳票、RPA連携 | 月数千枚以上、多様な帳票を扱う企業 |
| SmartRead(Cogent Labs) | 0円 | Small 年額360,000円(月額換算30,000円)、Standard 年額960,000円、Enterprise 年額240万円 | 項目数や全文読取のページ数による | 活字・手書きに対応、帳票の自動仕分けに強い、500ページまで無料トライアル | 少項目の帳票を大量処理する企業 |
| スマートOCR(インフォディオ) | 100,000円 | 月額30,000円〜(月300枚まで、最低利用3か月) | 枚数上限つきの月額制 | 手書き・非定型に対応 | 月数百枚規模で小さく始めたい中小企業 |
| LINE WORKS OCR | 0円 | 月額55,000円(税込)〜 | 1枚あたり50項目まで定額 | 仕分け・空欄項目の読取が追加費用なし、30日間無料 | 明細行の多い請求書・注文書を扱う企業 |
| invox受取請求書(invox) | 0円 | 月額980円(税込1,078円)〜 | 請求書1件ごと(AI OCRのみ50円、オペレーター確認ありは100円) | 請求書特化、AIと人の確認で高い精度、ユーザー数無制限、会計連携 | 月数十〜数百件の受取請求書を扱う中小企業 |
料金を比較するときの注意点
月額固定型は、枚数が少ない月でも費用が固定される一方、従量型は件数が増えるほど費用が増えます。たとえば、invoxのように1件ごとの従量が中心のツールは、月の件数が少ない会社に向き、月額が高めのDX SuiteやLINE WORKS OCRは、大量処理や複雑な帳票を扱う会社向けです。自社の「月間の枚数」と「帳票の種類数」を最初に数えてください。
他のツールとの比較(3つの選び方)
料金だけでなく、用途別に代表的な3ツールを比較します。
| 比較項目 | invox受取請求書 | DX Suite | LINE WORKS OCR |
|---|---|---|---|
| 得意な帳票 | 受取請求書 | 請求書・申込書・手書き帳票など幅広い | 明細行の多い請求書・注文書 |
| 費用感 | 少量なら低コスト(1件ごと) | 中堅以上向けの価格帯 | 月額固定で中堅向け |
| 精度の考え方 | AI+人の確認で精度を担保 | AIの学習と設定で最適化 | 仕分け・空欄項目の読取に対応 |
| 会計・業務連携 | 会計ソフトとの連携 | RPA連携など幅広い | チャットなどとの連携 |
| 向く会社 | 請求書処理が中心の中小企業 | 帳票が多様で、処理量が多い企業 | 注文書の明細が多い企業 |
比較時は、各社の「精度」の数字を鵜呑みにしないでください。測定条件(帳票の種類、画質、評価する項目)が統一されていないため、必ず自社の実際の帳票で試して確認する必要があります。
導入ステップ(Step 1〜6)
Step 1:対象の帳票と月間枚数を数える
請求書、注文書、納品書など、対象にしたい帳票の種類と、月間の枚数を数えます。取引先ごとにレイアウトが異なる場合は、種類の数も確認してください。
Step 2:読み取りたい項目と、連携先を決める
日付、取引先名、金額、明細など、必要な項目を決めます。読み取ったデータを、会計ソフト、基幹システム、スプレッドシートのどこに入れるのかも、このタイミングで決めておきます。
Step 3:無料トライアルで実際の帳票を読み取る
各社の無料トライアルやデモで、自社の実際の帳票(個人情報や取引先名はマスキングして)を読み取り、精度と修正の手間を確認します。サンプルではなく、現場で最も崩れやすい帳票を使うことがポイントです。
Step 4:確認・修正のルールを決める
AIの読み取り結果を、誰が、いつ、どのように確認するかを決めます。金額など重要な項目は、人が必ず確認するルールにします。
Step 5:小さく運用を始める
まず特定の取引先、または特定の帳票だけで運用を始め、1〜2か月で問題点を整理します。
Step 6:保存ルールと会計連携を整える
電子帳簿保存法に対応した保存方法(検索できる状態での保存など)を整え、会計ソフトへの連携を安定させます。要件の詳細は、国税庁の公式情報でご確認ください。
導入事例
当協会の支援現場の相談を、守秘義務に配慮して一般化し、業種・規模のみを示す形で紹介します。
事例1:製造業(従業員50名)— FAX注文書の手入力を削減
取引先からFAXで届く注文書を、事務担当が毎日手で入力していた会社の例です。AI-OCRで注文書を読み取り、基幹システムに取り込む形にしたことで、入力の時間が減り、転記ミスも少なくなりました。取引先ごとに読み取り設定を調整する期間は必要でしたが、確認する項目を金額と納期に絞ったことで運用が安定しました。
事例2:建設業(従業員20名)— 受取請求書の処理を月末集中から日次へ
協力会社からの請求書が月末に集中し、経理担当が数日間その処理に追われていた会社です。請求書特化のツールで、届いたらその日のうちに読み取る運用に変えたことで、月末の負荷が分散されました。支払期日の管理もしやすくなりました。
事例3:卸売業(従業員15名)— 手書き伝票のデータ化
営業担当が現場で書く手書きの伝票を、事務所で打ち直していた会社の例です。手書き対応のAI-OCRで伝票を読み取ることにしましたが、字の癖で誤読が出るため、記入のルール(枠内に楷書で書く)を同時に整備しました。ツールと運用ルールをセットで改善した点が成功の要因でした。
デメリット・注意点
読み取り精度は100%ではない
AI-OCRは高い精度をうたいますが、帳票の画質、手書きの癖、レイアウトの違いで誤読が起きます。金額・日付・口座番号など重要な項目は、人の確認を前提にしてください。
帳票の種類が多いと設定の手間がかかる
取引先ごとにレイアウトが違う場合、読み取り設定やルールの調整が必要です。導入初期は、想定より手間がかかる場合があります。
従量課金は件数が増えると費用が膨らむ
1件ごとの課金は、少量なら低コストですが、件数が増えると月額固定型より割高になることがあります。年間の件数の見込みで比較してください。
取引先情報の取り扱いに注意が必要
クラウドサービスに請求書や注文書を渡す場合、取引先の情報や個人情報を含むことがあります。保管場所、データの扱い、契約内容を事前に確認してください。
紙の運用が残る限り、効果は限定的
受け取りが紙のままだと、スキャンの手間が残ります。可能なら、取引先にPDFやメールでの送付を依頼するなど、受け取り側の入口も見直してください。
よくある失敗パターンと対策
失敗1:精度の数字だけで選ぶ
各社の精度の数値は、測定条件が異なります。対策は、自社の実際の帳票で、無料トライアルを行い、修正の手間を比較することです。
失敗2:人の確認工程を省いて運用する
読み取り結果をそのまま会計・基幹に流して、誤りに気づかない例です。対策は、重要項目の確認ルールを決め、確認者を明確にすることです。
失敗3:枚数を数えずに料金体系を選ぶ
少量なのに高額な月額固定を契約する、大量なのに従量課金を選ぶ、といった例です。対策は、導入前に月間枚数と帳票の種類を数えることです。
失敗4:読み取りだけを自動化して、後工程が手作業のまま
読み取ったデータを、結局手作業で別システムに入力していては効果が出ません。対策は、読み取りから会計・基幹への連携までを、一連の流れとして設計することです。
まとめ
AI-OCRは、請求書や注文書の手入力を減らす、費用対効果の出やすい自動化です。選定では、月間の枚数と帳票の種類を数え、料金体系(月額固定か従量か)と、得意な帳票を照らし合わせます。精度の数字は鵜呑みにせず、自社の実際の帳票で試したうえで、人の確認工程を含めた運用を設計してください。
業務自動化の全体像は、当協会のDX・AI情報サイト(https://dx-ai.seed.or.jp/)の関連記事もご覧ください。料金・機能は変更されるため、最新情報は必ず各社の公式サイトでご確認ください。
参考:比較記事(Uravation、2026年7月13日時点の公式情報に基づく調査)ほか、各社公式サイト。


